Existence *
その日、いつもより早く仕事を終わらせた俺は帰宅してシャワーを浴びた。

浴びて速攻、お湯を沸かし棚からカップ麺を取り出す。


結局、昼の休み時間、パソコンをずっと眺めていた所為で食わずのままだった。

湯を沸かしている時、玄関の開く音がし、足音がこっちに聞こえてくるのが分かる。


「おかえり」


リビングに入ってきた美咲に声を掛けると、美咲は頬を緩めた。


「あ、ただいま。早く終わったんだね」

「あぁ」


そしてその美咲の視線が俺の手元に移り不思議そうに見つめた。


「何してんの?」

「ラーメン」

「ラーメン?」

「昼飯食いそびれた」


ま、食いそびれたというより没頭し過ぎて食っていなかったのほうが正しい。

思わず苦笑いする俺は沸かしたお湯をカップ麺に注いだ。


「食いそびれたって、もう17時だよ?」

「あぁ、夜飯か」

「そうじゃなくって、食べれないくらい時間なかったの?」

「忙しくて」


別の仕事で。

なんて、そんな事言えるわけがない。


「…そうなんだ。あ、何か他つくろうか?」

「ううん。今はいいや」


そう言ってカップ麺と箸を持ち、テーブルに向かう。

そして座って俺はテレビのリモコンを手にした。


テレビをつけニュース番組に視線を向けていたのを美咲に向ける。

冷蔵庫から取り出した水を口に含んだ美咲は額に手をあてて何度も拭っていた。

顔を顰めて深呼吸する姿。

その姿にいつもと違うと直感で分かってしまう。

何度も頭を擦って、俯く美咲。

水を飲んだと思ったら、また再び頭を擦る。


「…美咲?今日は夜飯作んなくていいから」

「……」

「なんか腹減ったらまた適当に食うわ」

「……」


まるで、俺のこの声が届いていないかのように美咲からの返答は何もない。

だから箸を置いて、一度立ち上があり、美咲へと近づく。


「美咲?」

「……」

「美咲っ、」


俯く美咲に声を掛け、美咲の肩に手を置き顔を覗き込む。

その所為で、美咲は驚いたように身体を震わせた。
< 115 / 119 >

この作品をシェア

pagetop