Existence *
「…なぁ、アンタ」


思わず声を掛けてしまった。

その俺の声で女の子は一瞬、ビックリしたかのように身体を震わせる。

俺の顔を見た瞬間、女の子はハッと目を見開いた。


「アンタ、美咲の学校の…」

「……」

「何してんの?こんな時間に…」

「……」

「普通に危ないだろ、こんな時間にウロウロして」

「……」

「夜中になるとこの辺は危ないから」

「……」

「なぁ、聞いてんの?」

「……」


女の子はまるで俺の声など届いていないかのように視線を逸らし遠くを眺めていた。

その目の前に立つ俺は小さく息を吐き捨て、その横に腰を下ろしてタバコを咥えた。


火を点けてタバコを咥えたまま視線を隣に向けると、女の子は寂しそうに顔を俯かせた。


「こんな時間にほっつき歩いて何かあったらどーすんの?」

「……」

「親、心配すんだろ」

「…大丈夫、です」


やっと小さく吐き出された声。

そう言った女の子は俺に視線を向けて、悲しそうに笑った。


「大丈夫って、普通に大丈夫じゃねぇだろ」

「ほんと大丈夫なんです。親、居ないんで」

「…居ない?」

「あ、居るんですけど、私には無干渉なんで」

「そう…。でも、もう帰った方がいい。夜の繁華街は危険だから」

「…帰りたくないんです」

「え?」

「だから私の事は大丈夫です」

「いやいや、そうにもいかねぇだろ」


ここで会ってしまった限り、ほって帰る訳にもいかねぇだろ。

知らねえ奴ならともかく、アンタの事知ってんだから帰れねぇだろ。


「ほんと私は大丈夫ですので先に帰って下さいね」


頬に笑みを作る女の子から視線を逸らし、顔を顰めたままタバコの煙を吐き出す。

だから帰りたくても帰れねぇっつーの。

出来る事なら俺も早く帰りたい。

帰って寝たい。

でも、アンタを見つけてしまったんだから帰るにも帰れねぇだろ。


だからと言って、この女の子が帰るまで俺もここに居る?

いや、まじで普通に無理。

だからって俺の所に連れていく訳にもいかねぇし。
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