Existence *
「今も悪い女健全かよ」


離れた唇から俺は小さく呟く。


「悪い?何が?都合いいって言ってくれる?別に彼女居ても私はショック受けないから」

「……」

「翔に女が居ても気にしないし、翔の事を奪うつもりもない」

「……」

「むしろ楽って言ってもらった方が嬉しんだけど。こんな最高な女、なかなか居ないでしょ」

「楽ねぇ…」

「浮気相手には丁度いいでしょ?したい時にする。翔だって、そうだったでしょ?」

「俺から誘った事一度もねぇけど」

「でもその誘いに乗ってきてたのそっちじゃん」


そう言いながら俺が持っていたタバコを奪い取り、それをサクラは何回か吸った後、灰皿にすり潰す。

そして再び俺に唇を重ね合してきた。


にもかかわらず、なぜ俺はそれを避けずに受け入れてしまったんだろうと。

丁度良かったのかもしれない。

このタイミングでサクラに出会ったことが。


「…やばい、キスだけで気持ちいいんだけど」


サクラが頬を緩めて、ソファーに俺を押し倒す。

覆いかぶさるように再びキスをし、必然的に舌が絡み合った。


他の女を借りて美咲を忘れようとしている俺は最低だろう。

でも、そう思っていても何故か自分の身体がサクラを受け入れてた。


誰でも良かったあの頃の様に。

ほんと、今思えばあの頃は楽だった。

何も考えずに誰かれ構わず寝て、サクラが言うように楽だった。


でも――…


「ごめん、もうちょっと酔わせて」

「なに?酔った勢いでヤるつもり?」

「そう。じゃなきゃ忘れたいことも忘れられねぇから」


とにかく美咲を少しだけでも忘れられたらそれで良かった。

思い出すのがしんどい。


「なにそれ、忘れたい事?」

「……」


覆いかぶさっているサクラが身体を起すと、俺はテーブルにあるグラスを掴み喉に流し込む。

そして再び空になったグラスに酒を注ぎ、また喉に流し込んだ。


「もしかして女?…とか?」

「……」


クスクス笑うサクラの笑い声を耳にしながら俺は酒を喉に流し込む。


「いいよ。全部忘れさせてあげる」


サクラがグラスの酒を口に含んで俺に覆いかぶさる。

そしてそのまま唇を重ね合わせた。

サクラの口から流れ込んでくる酒。


それだけで酔いそうになる。

いや、この俺でも少し酔ってるかもしれない。

久しぶりに飲んだ酒が回ってきたのだろうか。

だから自分が自分じゃなくなる。
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