Existence *
「…翔、上がったよ」


揺れる身体に聞こえる美咲の声。

ゆっくりと目を開けると、美咲が覗き込むように俺を見ていた。


「ごめん。寝てた」


いつの間にか瞼が落ち、寝ていたんだと気づく。

身体を起しその重い足取りを動かせた。


「お風呂…」

「うん、入る」


まだ冴えない目を擦りながら風呂場に向かう。

湯船につかり、俺は深く背をつけて天井を見上げ、そして目を瞑る。


やばっ、

まじで眠い。


暫く浸かったまま出れなかった。

だけど、ここで目を瞑っていると本当に寝てしまいそうで、俺は冷たい水で顔を洗って眠気を飛ばす。


風呂から上がって水を飲んだ後、寝室に行くとシーツにくるまってる美咲の隣に身体を預けた。

そしてそのまま背後の美咲の身体に俺の腕を回し、抱きしめる。


「…美咲、寝た?」


俺の声で美咲が首を振る。

そんな美咲の身体を俺は更に抱きしめた。


「どうしたの?」


不思議そうに問いかけて来る美咲に俺は軽く息を吐き捨てる。


「別に…」


そう言った俺の腕を美咲は解放し、美咲はそのまま身体を俺に向けた。

その所為で髪が美咲の顔を隠す。

その髪を払いのけようと俺は手を伸ばし、美咲の髪を首の後ろへと回した。


「…これって夢じゃないよね?」


ホント何言ってんだか。

思わず笑う俺に美咲は笑うことなく俺を見つめる。


「なに?夢って」

「いや、不思議だなって思って」

「不思議?」

「正直、5年経ってたら翔とは居ないだろうなって思ってた部分もあったから」

「それ、ひどいな」

「だから夢みたい…」

「もー俺は、お前に会えたから夢でも何でもいいけどな」

「……」

「美咲の事、好きって気持ちは変わってねぇや」


気持ちを伝えた後、俺は美咲の瞳に吸い込まれるように近づき、そして唇を重ね合す。

美咲を忘れた事なんて一度もなかった。

美咲を思い出さないように必死になって仕事をしていたけど、忘れた事なんて一度もなかった。
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