Existence *
「それは昔じゃん。私、今は毎日食べてるもん」

「へぇー…そうなんだ」


あー、そか。

あっちで3食自炊してたって言ってたもんな。

そう思うとすげぇなって思った。

あの時の美咲は既に居ないって事か。


「食べたほうがいいよ?」

「だって何もねぇし、今日はいらね。しかも食ってたら間に合わねぇわ。もう出ねぇと」


そう言いながら美咲の横をすり抜け冷蔵庫へと向かう。

そこから取り出したペットボトルの水を喉に流し込む。


「今日は遅いの?」

「うーん…分かんね。何で?」

「いや、とくに何もないけど…」

「19時か20時か、そんくらい。…あ、そうだ」


不意に思い出した鍵の事。

もう一度寝室に向かい、そこにある棚の中から銀色に光る鍵を取り出す。

そのカギを持って、美咲に差し出した。


「うん?」

「鍵。美咲の」

「ありがと」


受け取る美咲はその鍵を見て微笑む。

その表情に俺も笑みを漏らした。


「あ、駅だけどここを出て左。大通りをずっと歩いたら右にあっから。そんな遠くねぇよ」

「うん。分かった」


美咲に見送られ仕事に向かう。

それがもの凄く新鮮だった。

正直、5年前じゃ今のこの状況すら考えられなかった。

一緒に居るだろうと思い描いていても、本当にそうしてるんだろうか、と内心思っていた。


…それにしても眠い。

このトビの仕事もいつまでだろうか。

16歳からずっとお世話になった場所。

ここが嫌いなわけでもない。


ただ、俺の居場所はここじゃないと、そうずっと思ってた。
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