Existence *
だけど。

俺の声など無視して足を進めていく美咲に思わず笑みが零れる。


「あー…、無視ってやつか。可愛くねぇ」


続けて声を出す俺はフッと鼻で笑う。

その所為か美咲は進めていた足をピタッと止めてゆっくりと振り返った。


笑みを浮かべて見つめる先に困惑した美咲が居る。

サングラスをしている所為でその表情すら読み取れないけど、驚いて声も出せないでいるに違いない。


「おかえり、美咲」


目の前の美咲は未だに驚いているのか呆然としたまま立っていて、そしてゆっくりと掛けているサングラスを外した。

あぁ、やっぱり美咲。

でも、あの頃の美咲はどこにもいなかった。

これが5年経った今なのだろうか。

さっきすれ違った男達が口にした綺麗と言う言葉が当てはまるくらいに、美咲は物凄く綺麗になっていた。


外されたサングラスから表す綺麗な瞳。

凛として整った顔が物凄く綺麗にメイクされていた。

俺の中で止まっていた18歳の美咲はどこにもなく、物凄く大人になっていて、見た瞬間、逢いたかったと心から思った。


逢いたくて、

逢いたくて、

待っていた5年。


「な、なんで…」


暫くして美咲から小さく零れ落ちた声。

目を見開き、その瞳が微かに揺れる。


そんな驚く表情に俺は笑みを浮かべた。


「良かったぁ美咲で。声かけたけど間違ってたらどうしようかと思った。すんげぇ大人っぽくなってっから」


サラサラとした長い髪が風で邪魔をし、それを美咲は指で払い耳に掛ける。

デコレーションされた爪、その細い指に俺があげた指輪が嵌められていた。

それを見て少し安堵してしまった自分が居た。

まだ俺の事を忘れていなかったんだな、と。


「いや、…じゃなくてさ。どうして居るの?」


戸惑うように言葉を吐き出す美咲は未だに信じられないようで、困惑したように俺を見る。


「どうして居るのは、俺のセリフ。なんで日本にいんだよ。みずくせーよ、俺にも連絡しろよ」

「いや、翔のマンションに行ってさ、驚かせようとしたの」

「もう十分驚いてるっつーの」


驚かせるって…、んだよ、それ。

思わずため息を吐き出し美咲のスーツケースを掴み、足を進めた。
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