Existence *

過去の記憶

数日後、沙世さんの事を思い出して、店に訪れた。

時刻は15時を回ったところ。

仕事が13時で終わった日、俺は足を運ばせた。


「あ、翔くん…」


俺に気付いた沙世さんが笑みを浮かべて俺に視線を送る。

カウンターに座る俺に、「昼ご飯は食べたの?」なんて聞いて来る沙世さんに軽く首を振った。


「まだ」

「なら丁度良かった。かつ丼作ったから食べない?」

「食べる」

「ちょっと待ってて。用意してくる」


そう言って沙世さんは目の前に麦茶を置き、その場を離れていく。

そのグラスに口をつけ、冷たい麦茶を喉に流し込んだ。


沙世さんが来る間、スマホを取り出して画面に埋もれてくるニュースに目を通す。

ほとんどテレビは見ねぇから最近ではネットニュースばかりだった。


「はい、お待たせ」


暫くして目の前に置かれるカツ丼とサラダ。


「どーも」

「最近、ちゃんと食べてるの?」

「食べてる」

「美咲ちゃんが作ってくれるの?」

「そう。でも毎日は居ないけど」

「ふーん…そうなんだ」


嬉しそうに沙世さんは頬を緩ませ俺をジッと見つめる。


「なに?」


その視線に気づいた俺は少しだけ眉を顰めて沙世さんを見た。


「美咲ちゃんってさ、物凄く美人だね。驚いた」

「はい?」


思わず視線を落として食べていた手が止まり、再び俺の視線が沙世さんに向く。

案の条沙世さんは、物凄く頬を緩めて嬉しそうに俺を見た。


「翔くんには勿体ないくらいの美人さん。うーん…夜の店ではあまり居ないね、あの風貌は」

「……」

「この世界に居ると、私も沢山の女の子見てきたけど、あそこまでの美人さんはなかなか居ないかも。そりゃもちろん夜の業界は華やかで綺麗な子多いけど、美咲ちゃんは何か違うのよねぇ」

「どこでみた?」


沙世さんの所為で俺の箸が全く進まなかった。

多少腹が減ってたのに、何故かもう一杯になりそうだった。


そんな沙世さんはクスリと笑った。
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