Existence *
「百合香のお墓だよ」

「お墓?」

「一緒に行ってたでしょ?」

「あ、あー…」


思い出した。

お袋の墓に行ったとき、まだ真新しい花が飾られてあったこと。

何日か経った花の咲き誇りではなかった。


「そこで見かけた」

「居たのかよ」

「声かけようと思った」

「いや、いいから」

「だって、翔くんなかなか会わせてくれないんだもん」

「会わせたからってなんもねぇだろ」

「だから声かけようとしたんだけど、私も急いでたから」

「あぁ、そう」

「ねぇ、大丈夫?翔くん…」


沙世さんの顔がグッとのめり込むように来て、俺の顔を見つめる。

その表情は真剣かと思いきや、フッと頬を緩めた。


「はい?なにが?」

「あそこまで美人だったら他の男も寄り付くでしょ?」

「さぁ…」

「可愛いとはまた違うんだよね。綺麗って言葉も当てはまるんだけど、また違う。ほんとに美人って言葉が当てはまるくらいの子だった」

「……」

「ねぇ、いい話があるの」

「いや、いいわ」

「何よ。まだ言ってないわよ」

「わかるから。言わなくてもわかる」


そんないい話じゃねぇって事くらいわかる。

沙世さんがそんな風に言ってくる時は絶対にいい話では、ない。


「美咲ちゃんって、何してるの?丁度さ、誰か探してたのよ。でもなかなかビンゴの子が居なくてさ」

「……」

「絶対いけると思う」

「つか何の話してんだよ、」

「モデルの話」

「はい?」

「美咲ちゃんどう?知り合いにさ、編集長が居て、トップモデル誰かいないって言われてたの。夜の業界で探してたんだけど、この業種じゃないなーって思って難航してるの」

「無理」

「なんでよ」

「無理なもんは無理。俺が断る」

「えー…なんで?美咲ちゃんなら絶対いけると思うわ。背も高いしスタイルいいし美人だし、いいと思うけど」

「美咲もそんなのに興味ねぇよ」

「あ、そっか。もし有名になっちゃうと翔くんの傍から離れちゃうもんね」


クスリと笑った沙世さんに眉を寄せて、止めていた箸を再び動かす。

そして俺は、口を開いた。
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