Existence *
「聞いたでしょ?ママは助かる見込みも少ないんだって」

「……」

「私、一人になっちゃう可能性高いの。私、まだ24だよ?なのにそんな事言われても分かんないよ…」


次第に美咲の声が弱くなっていく。

涙を拭う美咲の身体を俺は抱きしめ美咲の頭を何度か撫ぜる。


「…ごめん、美咲」


すすり泣く美咲の頭を撫ぜていくうちに、声を押し殺して泣く美咲の声が徐々に弱まっていく。

徐々に落ちついてくる美咲の身体を離すと、俺は傍にあるソファーへと美咲を座らせた。


看護師が入院の手続きと手術の説明をし、記入用紙に書き終えると、ソレを持ち俺は立ち上がった。

受付の窓口に提出をし、美咲の所へ戻ろうとする足を止めて、窓口に顔を出す。


「あの、ちょっとだけ病室に案内してもらってもいいですか」

「はい。わかりました」


看護師に案内され部屋に入ると、目を瞑って点滴をするお母さんの姿が目に入る。


「さっきまで目を開けてらっしゃったのですが」

「そうですか。検診には来てなかったんですか?」

「そうですね。随分と来られてないですね」

「……」

「明日、手術をしてその結果を夕方にはお伝えできると思いますが、どなたか来られる方はおられますか?」

「自分が来ます」

「わかりました。また来られましたら受付までお願いします」


頭を下げて出ていく看護師に軽く頭を下げ、眠っているお母さんを見つめて一息吐く。

美咲に黙ってた事は何一つ後悔はしていない。

ただ、後悔してるのは、お母さんの事を気にかけていなかったこと。


その後悔だけが押し寄せて来る。


その部屋を出て美咲の所に向かうと、美咲はソファーに横たわっていて、目を閉じていた。

もう時間も時間。

とっくに一時は過ぎているのに俺の眠さなんて全く感じなかった。


「今日は帰ろ」


美咲の隣に腰を下ろし、美咲の肩に触れる。

その触れた俺の感覚で美咲はゆっくりと目を開けた。


真っ赤になった目が寂しそうに揺れ、俺は背中を擦った。


「…ママ」

「意識はあるみたいで今、点滴してる。…今日は帰ろ」


何も答えない美咲の腕を引いて、マンションまで連れて帰る。

そのまま美咲は気力もないくらいにソファーに倒れ込んでふたたび目を閉じた。
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