Existence *
考えるのは美咲と、美咲のお母さんの事で。

それに時折頭を遮るお袋の過去。


思い出さなくていい事は新鮮に蘇ってくるこのうっとおしさに頭が重い。

そんな事を1日中考え仕事が終わって一旦、帰宅し、俺はシャワーを浴びてから病院へと足を運んだ。


病室に入ると、目を瞑ってたお母さんがゆっくりと目を開ける。

そして俺を見てすぐに頬を緩ませた。


「…翔くん、…ごめんな、さいね」

「いえ」

「美咲は…」

「学校行ってます」

「そっか…。先生だもんね」


苦しそうに話すお母さんの声が擦れている。


「顔見に来ただけなんで、今日はもう寝て下さい。また来ます」

「翔くん、ごめんね」


何に対して謝ってたのか俺には分からなかった。

病室を出て、受付に顔を出し、担当医を待つ。


…――翔、ごめんね。


お袋が言った言葉と重なり合う。

病院で、お袋と同じ言葉を言い放った美咲のお母さん。

何に対しての言葉なのだろうか。


正直、お袋のあの言葉の意味も当時の俺には分からなかった。

何に対してのごめん。なのか…


なのに俺は金の事しか口にすることはなかった。


今となって分かる事と言えば、迷惑かけてごめん。その意味だろうと。

だから美咲のお母さんが放った言葉も、そうだろうと…


暫くして担当医が姿を見せ、淡々と話していく言葉を俺はジッと聞くしか出来なかった。

あまりにも話が重すぎて。

でもその言葉を真摯に受け止めないといけないと、そう思った。


自分で自分を責め、また過去と重なり合う。


もっと気にかけるべきだった。

もっと、気にかけて言葉を交わせばよかった。


他に転移してる部分もあり――…

あと2か月持つかどうか――…

このまま入院での生活になると思います――…


やはり昨日、看護師が言ったようにお母さんは病院には行っていなかった。

行ってるばかりと思っていた。

俺がもっと気にしてれば――…
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