Existence *

記憶の愛情

「…ごめん、美咲」

「……」


起きてるかどうか分からなかったが、俺はベッドに寝ている美咲の隣に腰を下ろし口を開いた。


「美咲よりずっと近くに居たのに気付いてなくてごめん…」

「……」


俺がもっと気にかけていれば…


「お母さん、検診に行ってなかったらしい。5年前、摘出してからはずっと必ず行ってた」

「……」

「だから今も俺はてっきり行ってると思った。いつも大丈夫ってそう言ってたから。…なのにそれさえも気づいてなく――…」

「…癖」

「え?」


俺の声を遮って声を出した美咲に俺は反射的に顔を上げる。


「ママの悪い癖。昔っからママは行かなかったから」

「……」

「別に…翔の事を責めてないよ。この1ヶ月間、身近に居たのは私。でも、そんな身近にいたのに気付かなかった」

「…美咲?明日、休めば?」

「休めないよ。…授業しなきゃいけない」

「そっか。じゃあ昼行って。俺、夜行くから」

「うん」


小さく呟く美咲の横に寝転がり、俺はそんな美咲の身体を抱きしめながら目を閉じた。

目を瞑ってもなかなか寝付くことが出来なかった。

今のこの現実と過去が重なり合って、俺の心がドロドロになっていくのが分かる。


遠い記憶が変わるわけでもなく、その思い出したくもない記憶が更に眠りを妨げる。


いつの間にか眠りについた美咲の身体から腕を離し、一度起き上がる。

冷蔵庫から取り出した水を喉に流し込み、深いため息を吐き出した。


時刻は3時半。

そのまま全く睡眠すら出来ないまま朝を迎える。


寝たのは2時間ってとこだろうか。


眠っている美咲を起さないようにと起き上がり、俺はその足でコンビニに向かった。

適当にパンを買って戻り、俺はすぐに仕事へと向かった。
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