Existence *
「病院に行こうかどうしようか迷ってたけど、翔さんの話聞いてから行こうと思って。アイツは大丈夫?」

「多分な。朝、俺が出る時は寝てたから分かんねぇけど、仕事行ってっから大丈夫と思うけど」

「お母さんは?」

「うん…」


小さく呟く俺に諒也は、「翔さん、なんて?」諒也が顔を顰めて聞いてくる。


「…再発してるって」

「え、癌が?」

「そう」

「手術したんじゃねぇの?」

「したけど転移があって――…」

「あって、なに?」

「余命2ヶ月って」

「…え?マジで言ってんの、それ」

「――…それ、ホントなの?」


背後から聞こえた声。

振り向くと、葵ちゃんが表情を崩して俺をジッと見つめた。

そして、その瞳が潤んでいたのが分かった。


「今日、医師から言われたから」

「美咲は知ってるの?」

「いや、まだ知らない」

「2か月って、」


震える声を出し、伝った涙を拭う葵ちゃんに、「ママどうしたの?」香恋の悲しそうな声が耳を掠める。


「なんでもないよ」

「ママ、泣いてるの?」

「泣いてないよ」


しゃがみ込んで香恋の頭を撫でる葵ちゃんはそっと笑みを漏らした。


「ママ…」

「おいで香恋。手伝って」


葵ちゃんは香恋の手を引いてキッチンに入って行く。

その姿から俺は諒也に視線を移し、俯いた。


「2か月って事はもう治療方法はないって事だよな」

「そうみたい。転移してるっつってたし。病院に行ってなかったらしい」

「……」

「さっきここに来る前に実香子に会ってきた。アイツには言っとかねぇとって思って」

「…そう。ごめん、翔さん。俺、病院行ってると思ってた」

「俺も行ってると思ってたから――…」

「はい、どーじょ」


香恋の小さな可愛い両手が目の前に現れる。

グラスを持ってテーブルに置いた香恋はこの空気をかき消す様にニッコリと笑みを向けた。


「ありがとう、香恋」


頭を撫でて、手の甲で香恋の頬に滑らすと、香恋は真向かいのまま俺の膝へと座り込んだ。


「翔くんも泣いてるの?」

「泣いてないよ」

「ママ泣いてる。なんで泣いてるの?…翔くん?」


悲しそうな顔で見つめてきた香恋の頭を撫ぜると、香恋は抱きついて俺の首に両腕を回してきた。

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