Existence *
「香恋も寝る」

「うん」

「翔くん、泣いてる?」

「泣いてないよ」

「どっか痛いの?」

「痛くないよ」

「パパもママも泣いてる」

「…大丈夫。みんな香恋が居たら笑顔になるから。もう寝ような」

「うん、ウサギちゃんも一緒に寝る」

「うん、寝ような」


頭を撫ぜて、寝かすつもりが俺の瞼が落ちていくのが分かる。

やばい。

そう思ってても睡魔が襲い、一瞬意識を飛ばしていた。

いや、一瞬と言うより普通に眠りに入ってしまっていた。


目を覚ました頃にはとっくに香恋は眠りについていて、俺は身体を起し息を吐き出した。

眠っている香恋の頭を撫ぜ、布団を掛け直す。

そして香恋を起きないようにと立ち上がり、リビングに向かった。


「ごめん、普通に俺が寝てたわ」


ソファーに座っている二人に声を掛けると、諒也がクスクスと笑みを漏らして俺を見つめた。


「翔さん、見に行ったら香恋抱きかかえたままガチで寝てたから、そっとしてた」

「悪い。昨日2時間しか寝てねぇから横になった瞬間、寝てたわ。香恋がいつ寝たのかも知らねぇわ」


苦笑いしながらソファーに腰を下ろすと、葵ちゃんが俺を見て頬に笑みを作る。


「すみません、香恋の事」

「いいよ。むしろ俺が寝かされてたって感じだったしな」

「何か飲みますか?」

「いや、もう帰るわ。今から美咲迎えに行くから」


掛け時計に視線をうつすと、もうすぐで22時半を過ぎようとしている。


「美咲の事、お願いします。私も明日、病院に行くので」

「うん。ありがとう」


諒也の家を出て、その足で美咲の居る学校へと向かう。

着いてすぐ車から降り、俺はタバコを咥えた。


眠気覚ましにもなんも何ねぇけど、タバコに火を点けて煙を吐き出す。

昨日の今日で、美咲の事を気にならないと言うのは噓になる。

今日どんな思いで過ごしていたんだろうか。と思うと、今日言われた医師からの言葉が告げにくい。


短くなったタバコを灰皿に押し潰し、俺はスマホを取り出して時間を確認する。


…――22時56分。
< 97 / 119 >

この作品をシェア

pagetop