シンデレラは豪雨の中で拾われる
 着いたのは案の定、見上げるだけで首が痛くなってしまいそうな高層マンションだった。コンシェルジュ付きのエントランスをくぐった先、広いエレベーターで迷いなく最上階のボタンが押された時は、いよいよ何も思わなくなっていた。

 この短時間で慣れてしまったらしい。無理もないだろう。
 もはや某テーマパークに行った時のような気分だ。ひと時の夢。そういうことにして、全てを受け入れよう。

「どうぞ、上がってください」
「おじゃまします」

 リビングに上がらせてもらうと、そこはモデルルームのような洗練された空間だった。
 余計なものは一切なく、窓の外には宝石を散りばめたような東京の夜景が広がっている。生憎の雨ではあるが、それでも息を呑むような美しさ。晴れていたら、さらに別の美しさを魅せるのだろう。

 私の住むアパートとは比べ物にならない。それどころか、同じ「住居」という括りにすら入らないような圧倒的な格差を突きつけられた。広さだって、比較するだけ悲しくなるほどだ。

「疲れているでしょう。まずはお風呂に入ってください」
「そんな、家主よりも先に入るなんて申し訳ないですよ」
「私は大丈夫です。貴女は一度雨に濡れていますし、これは私からお願いだと思って」

 なんて言葉巧みなんだ。段々と冷静になった頭は、そんなことを思ってしまう。
 葛城さんは、持っていた紙袋を渡してくれた。それは、さっき買ってもらった服が入っているものだ。

「先ほどの購入した服がここに入っています。お風呂上りに着てください」
「ありがとうございます」
「湯はもう張ってありますので、体を温めてから上がってきてくださいね。決して慌てることのないように」

 私の行動を読んだかのように、最後に念を押して言われてしまう。
 そのまま荷物だけ置かせてもらい、紙袋を持って浴室に案内してもらう。

「ある物はご自由に使ってください。私はリビングにいますので、何かあったら呼んでくださいね」
「ありがとうございます」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
 
 そんな言葉と共に、浴室の扉は静かに閉められた。
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