シンデレラは豪雨の中で拾われる
 食事が終わると、私たちは再び車に乗った。雨は一向に止む気配がなく、むしろさらに強まっていた。
 空腹が満たされた上に程よく酔った私は、ほんの少しだけ眠たくなっていた。そういえば、今日は出張先で仕事をした後だ。疲れもあるに違いない。それに追い打ちをかけるような雨音が眠気を誘ってくる。条件的にも不可抗力だろう。
 
「ふふっ、眠たいですか?」
「…すみません」
「いえいえ。それほどまで、気を許してくれたことが嬉しいです」

 葛城さんの口調は穏やかで、その声さえも心地よい。

「この後はどこにも寄らず私の家に行くだけですので、お休みになっていても構いませんよ」
「葛城さんの…お家?」

(あれ、そんなこと言われたっけ…?)

 会話を思い出そうとしても、上手く思い出せない。
 でも、言われていないような気が…

「ゲストルームもありますし、遠慮は無用です」

 ここまで様々な面で面倒を見てもらったのだから、今更だろう。図々しいが、自分の中でそう結論付けた。

「そういうことなら、お世話になります」

 この大雨の中、東京で一晩を過ごす術を持たない私にとって、彼の誘いを断ることは再び駅の片隅で寒さに震えることを意味していた。私は改めて、小さく頭を下げるのだった。
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