シンデレラは豪雨の中で拾われる
 部屋着姿でリビングに戻ると、玲央さんはソファーに座って本を読んでいた。彼は私に気づき、本を閉じて立ち上がった。

「お先です。ありがとうございます」
「おかえりなさい。どうです、その服は」
「サイズもピッタリで、とても着心地がいいです」

 彼は、私の全身をゆっくりと隅々まで見つめた。その視線に、私は背筋が伸びる。そして、ふっと葛城さんの瞳が蕩けるように細くなった。

「…可愛い」

 たった一言。
 その声は甘く低い。まるで、とっておきの宝物を見つけたかのような、深い満足が込められていた。

 独り言のように呟かれた突然の賛辞に固まってしまう。何か言うべきかと気づいた時には、もう葛城さんが口を開いていた。

「では、私もお風呂に入ってきます。ゲストルームへは後で案内しますので、リビングで寛いでいてください」

 パタンとドアが閉まる。

(か、可愛い…?)

 葛城さんが去った後、私は1人で顔が熱くなるのを感じた。
 私の人生で「可愛い」なんて言われたのは、いつが最後だろう。ましてや、葛城さんのような完璧極まりない男性から、こんなに甘く熱のこもった視線と共に言われたのは、初めてだ。

 私は彼の言葉に動揺し、その場に蹲るしかなかった。
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