シンデレラは豪雨の中で拾われる
 私は、彼の車が見えなくなるまで見送ってから、新幹線のホームへと向かった。
 ホームの喧騒は、昨日の夜の静謐な非日常とは正反対だ。自分の世界に戻ってきたことを実感し、少しだけ胸が締め付けられる。

(シンデレラはガラスの靴を残したけれど、私にはその勇気はなかったな…)

 彼の元には私関係の物は、一切残っていない。
 せいぜい記憶ぐらいだろう。写真だって撮っていないのだから。

 
 指定された席に座り、窓の外を眺める。手元には、昨日まで持っていたものとは比べるまでもないほど高価な鞄。

 平凡な私にとって、たった1日で経験したことは、あまりにも非日常すぎた。
 この鞄を見る度に、あの紳士的で優しい葛城さんの笑顔を思い出すだろう。

(彼に愛された記憶があれば、きっと私は生きていける)

 遠くから想いを寄せてしまうかもしれないけれど。
 彼の影を遠くから追ってしまうかもしれないけれど。

 どうか、許してください。

 そんな思いと共に、鞄を強く抱きしめた。
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