シンデレラは豪雨の中で拾われる
 その後、玲央さんは私が着ている服やそれに合うバッグや靴を選んだ。センスがいいのは素晴らしいことなのだが、値札を一切見ないまま次々と選んでいくのが恐ろしい。

「これとこれを。あと、部屋で着るものも必要ですね。肌触りの良い部屋着をいくつか見せていただけますか?」
「え、ちょっ…」

 何て言って止めるべきかが分からない。でも思うのは、何も部屋着までこの店で選ばなくてもいいのではないか、ということ。
 結局、彼はすべての代金を1枚のブラックカードで一括会計してしまった。値札を見ずに、さらには会計時の金額もロクに見ずに一括払い。彼が何の仕事をしているのか、ここまで来ると怖くて聞けない。

「お客様。サービスでお化粧をさせていただきたいのですが、いかがでしょうか」

 会計をぼんやりと眺めていると、急にそんなことを言われた。
 確かに、この服に今の化粧は合っていない。サービスということならいいか、と思って頷くと、複数のスタッフに囲まれる。流れで目を閉じると、テキパキとブラシを走り始めた。

「終わりました。いかがでしょうか?」

 多分、5分もかかっていない。声と共に目を開けると、目の前には予想外の美女が映っていた。いや、本当に綺麗。『化粧で化ける』とはよく言うが、ここまでの変化っぷりは初めてだ。

「すごい…!」
「お客様は元のパーツが本当に良いので、私どもも化粧をさせていただいて楽しかったです」

 一級のお店は、スタッフまで一級なのか。切り返しが完璧すぎる。濡れ鼠のような状態で入店してしまったのが、今更ながら申し訳ない。

 葛城さんもちょうど会計を終えたらしく、私の元に来てくれた。そして私の顔を見るなり、顔を綻ばせた。

「先ほどの化粧も好きでしたが、その化粧も可愛らしいですね。特に今の服によく合っています」
「ありがとうございます」

 素直な言葉に照れてしまう。彼の言葉の甘さと圧倒的な行動力。私の頭は未だに混乱した。
 ただの親切にしては過剰すぎるだろう。それとも、何か裏があるのだろうか。疑わないでと、いう方が無理がある。
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