シンデレラは豪雨の中で拾われる
 車が走り出して、数分。着いたのは、私とは一生縁がないと思っていたハイブランドのブティックだった。豪雨の夜なのに、スタッフは私たちを待っていたかのように出迎える。雨の影響もあってか、客は私たちだけだった。

「「「いらっしゃいませ」」」
「いきなりで申し訳ないのですが、彼女に似合う服を見繕っていただけますか?値段は問いません」
「かしこまりました」

 葛城さんの言葉で、スタッフが店内に散った。あまりの手際の良さに、私は立ち尽くすしかない。

「そういえば、貴女の名前をまだ聞いていませんでしたね。もしよろしければ、教えていただけませんか?」
「あ、すっかり名乗り忘れていました…。佐々木 美玖と申します。あの、葛城さん、」
「おや、私の名前を憶えてくださったのですか。嬉しいですね」

 彼は椅子に腰かけると、上品に笑った。サラッと話をすり替えられかけたが、忘れずに引き戻す。
 
「あの、値段は気にしてください!ここのブランド、結構いい値段しますよね…?」
「良い物なら、値が張るのは当然です。それに、この店を選んだのは貴女に似合うと純粋に思ったからですよ」
 
 葛城さんは、私の必死の訴えを微笑みと共に受け流した。
 そんな会話をしている間に、スタッフは次々と服を持ってきた。一通り揃ったかと思えば、試着室に連れ込まれ、どんどん着替えさせられる。立っているだけで、全てをやってもらえるお姫様状態。しかし私は、受け答えに必死だった。
 
 最終的に、柔らかく上質な生地のロングレースのワンピースと落ち着いた色のコートに決まった。
 地味な自分をよく知っているからこそ、この突然の変身に戸惑う。だが、葛城さんは着飾られた私を、満足げに見つめていた。

「やはり、私の目は間違っていませんでしたね」
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