推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_19話:ララとアルフレード

「こんばんわ。エゼリオ班の皆さん」

退勤を告げる鐘が鳴る。とは言っても、当直勤務であるエゼリオ班には関係のない話。
午前は訓練に参加。昼から夕方までは広報関連の仕事があり街へ繰り出し、報告書の片付けがようやくひと段落着いた所。これから待機任務だ。何もなければ平和な時間になる、はずだったが、すぐに打ち壊される。
彼らの元に珍しい客がやって来た。ギョロリと動く大きな瞳に、細面かつ細身であるからやたら大きく見える。きちんと撫で付けられた髪に、丁寧すぎる振る舞いから怪しさが倍増され、妖怪の類のよう。
彼はエゼリオ班と同じ、普通科隊に所属する大佐である。彼の傍には、部下のララ・ウェンガーが控えていた。
アルフレードは内心首を傾げる。今日は他の親友たちと街巡りだと、アンジュから聞いていたからだ。何故ここにいるのか。訝しむアルフレードなど気にせず、ララは澄ました顔で立っていた。

「お時間いただけませんか?ものすごく私的事情で申し訳ないのだけど」

「構いませんが…何用でしょうか」

エゼリオが応える。帰って欲しいのが本音だ。不吉な予感しかない。疲れが溜まる業務中、これ以上の面倒はお断りしたい。
大佐は感謝を述べ、にこりと笑みを深めた彼は隣に立つララに掌を向けた。

「この子がアルフレード君の浮気現場を見たと騒ぐものだから、その真否を確かめに」

「は?」

一気に緊張が張り詰める。班員の目線がララに集中した。彼女は呑気にひとつ欠伸をすれば、歪んだ表情のアルフレードと向き合った。

「悪いが1日業務に追われていた」

後ろでエゼリオたちが一斉に頷く。
それも鼻で笑うララに、アルフレードの美しい顔に苛立ちが滲む。

「歓楽街で見たのは事実です。慣れた様子で侍らせてましたよ?アンタか、偽フレードか知らないけど、こっちは姿を見てんのよ。私だけじゃなくて、あと2人もね」

「ビアンカ・リエヒティとサーラ・ローサか」

今日は親友たちとのお泊まり会だと話していた婚約者。考えなくとも2人の顔が浮かぶ。たった2回ほどしか会ったことがないため記憶に乏しいが。

「何?見なかった事にしてもらう?」

「変なことを言わないでくれ」

ララが意地悪く、口の端を持ち上げる。ニヤリと笑う姿は悪魔のようだ。怒りのあまり、アルフレードは顔を真っ赤に染めた。拳を固く握りしめ、言葉を強める。

「…怒りに任せて手を出す質じゃないか」

試されている。アルフレードはますます目の前の女性に苦手意識を強めた。たまらずアンジュの笑顔を思い出し、アルフレードは逃避に走りかける。

「煽りに来たなら帰ってくれ。こっちは当直勤務だ。仕事がある」

「今夜は大切な親友宅でお泊まりですから。この後るんるんで帰りますとも」

「ウェンガー伍長。話が進まないわ。喧嘩を売りに来たと要件に入りなさいな」

「喧嘩?お待ちください。なんの目的で部下に殴り合いをさせるのですか」

部下たちの剣呑たる雰囲気に、どこで口を挟むか機会を伺っていたエゼリオ。2人が不仲なのは周知の事実。仕事では別だが、私生活まで気に食わない相手と仲良くなる必要はない。しかし、殴り合いとなれば話は別だ。それを大佐が承知しているのも問題である。

「安心なさいな。殺し合いに来た訳じゃないから。本部長、さらには大将の許可を得ています。正式な捜査活動の一貫よ」

「捜査?それは、アルフレードの不貞について、と言うことですか」

マーギッドの疑問に、彼は肩をすくめた。容量の得ない内容に、やはり帰って貰えば良かったとエゼリオは下唇を噛む。
渦中の2人は、お互いに見据えている。ララはポッケから小さなボトルを取り出すと、アルフレードに投げた。受け取ったアルフレードは、瓶越しに感じる魔力に目を一瞬見開いた。

「…わかった。時間は」

「アルフレード、いいのか」

エゼリオの問いに、彼はボトルを大事に仕舞いながら、頷く。

「構いません」

「じゃ、5分。綺麗なそのツラ貸して貰おうか」










すっかり暗い影が差し込む中庭。
ギャラリーは夜を照らす天体や星々のみ。遠くから聞こえる騒めきは、花祭りを楽しむ人々だろうか。

静かに告げられた戦闘開始の号令に、アルフレードとララは容赦なく力を振るう。お互い攻撃を寸前に躱す。代わりに受けた大地や建物が大きく振動した。

ララは結界を張ると壁を蹴り、空中へと飛び出した。彼女は火炎の魔法を放つ。アルフレードは右腕を上げ、自身を囲う結界を張った。



「やっぱり」



炎はアルフレードを焼く事はなく消えていった。

「はい5分。お疲れ様、2人とも」

丁度声がかかり、ララは器用に身を翻して地上に着地する。その姿に、アンジュの面影が重なった、

「なにが『やっぱり』なんだ」

微かに聞こえた台詞。間違いなく、何かが一致したに違いない。答えてもらえないと分かっていても、アルフレードはララに問えば想定内の反応を示された。

「分かってんでしょ。あんたには言わない。アンジュには、今晩女子会だから伝える。あとは、任す。それだけ」

彼女は立ち止まった。

「私はさ。自分の幸せと同じぐらい、アンジュたちの幸せも望んでんのよ。アンタも大変だって知ってるけど…アンジュだけで、戦わせないで。決めたら、1人でも突き進むからさ」

「…あぁ」

ララはアルフレードと、エゼリオたちに頭を下げた。

「それでは。我々はこれで。巻き込んだお詫びと言ったら何だけど、お菓子を置いておきましたから。ぜひ食べくださいね」

整った笑みを作ると、大佐は優雅にお辞儀する。2人は去っていった。

「軍人なら敬礼だろうよ。まったく相変わらずよく分からんお人だわ」

本当に人であれば、なんて嫌味を込める。中庭に取り残されたエゼリオ班の兵士たち。結果はわからないまま、兎に角過ぎ去った騒ぎに息を吐く。

「アルフレード、怪我はありませんか」

「大丈夫です。お付き合いくださり、ありがとうございます」

「お疲れ様さん。さ、班室に戻るぞ。ありがたく付き合わされたご褒美いただこうや」

春が近づいているがまだ寒い外にいる必要もなく、建物内へと戻る。アルフレードは制服についた砂埃を払いながら、かつて聞いた昔話を思い出していた。
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