推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_18話:3人寄れば

花祭りが開かれた中央は、日夜美味しそうな匂いが漂い、華やかな催しが開かれている。警備や防衛にあたる軍人らの緊張は他所に、思い思いに楽しんでいる。

ローランド公主催の夜会が開かれるにあたり、改めてサーラが中央にやって来た。
アンジュは生憎の仕事。ビアンカ、ララ、サーラの3人で、中央区の街をぶらついていた。アンジュとは今晩晩、彼女の借家でお泊まり会の予定だ。
街は鮮やかなオーナメントや花で飾られている。見ているだけで気分が上がってくる。

「あれは…アルフレード・ランゲではないか?」

「………あ、本当だ」

サーラが指差した方を見れば、2メートル近い背丈に、灰色の髪の男がいた。顔はわからない。隣に知らない女を連れている。2人は路地へと歩いていく。見張りについているはずの幻獣種の姿は見当たらない。
つまり。あれが噂の”アルフレード”。

「あちらって…歓楽街の方じゃないかしら?」

「ついてってみよう」

ララの提案にビアンカとサーラは乗る。
3人は”アルフレード”と女を追う。するすると、男女は入り組んだ路地へと進んでいく。やたら甘い香りが鼻につき、ぽつりぽつり現れる店はいかにも妖しげで。時折窓辺に腰を下ろす人物らは、肌を晒す薄着であった。

(これはまずいぞ)

軍人かつ成人を迎えたララは問題ないが、ビアンカは一般貴族、サーラは昨年成人を迎えたばかり。これ以上奥まった場所へと足を運べば危険が伴う。ララの目配せに、ビアンカとサーラは頷いた。ビアンカは足を止め、物陰に隠れた。


タン!


ララが壁を蹴り、飛び上がる。 サーラは同時に、魔術で身体を強化するとアルフレードに突進する。
素早く、"アルフレード"は左手を差し出す。手のひらに魔術印が展開、眩い光に照らされた。
ララとサーラは瞬時に目眩し封じを己にかけると、真っ直ぐ中心へ。ララは空中で身を翻すと、アルフレード、ではなく女目掛けて手を伸ばす。

しかし、2人とも掴んだのは空であった。

「消えたわね」

光も消えた。辺りには人気も無くアルフレードも、女の姿も見えない。

「ふむ。なかなかの術師だ。一瞬で消え失せるとは。それに、2人の足音すらしなかったな」

「ただの一般人が成りすましているって訳じゃなさそうね」

一瞬であった。空振りに終わるとしても、ララとサーラの2人がかりであれば、何かしら証拠を落として行くと思っていたし、女だけでも確保できれば手がかりが得れると考えた。それも空振りに終わった訳だが。男も、女すら跡形もなく姿を消した。
まるで元から居なかったようだ。

「なんで姿を現したんだろ。今アイツは仕事だって言うのに。偽者だって隠さなくなってる」

アルフレードも仕事中だ。その上今夜は待機任務。現在彼の周りには、多数の目撃者がいるに違いない。

「なら、もう良いのかもね。バレても良い、よりバレたいのかも。じゃあなんで逃げたかって言われると…何かしらねぇ」

「捕まる人は選びたい、とか?」

「ムカつくな、それは」

サーラは不満を感じ、顔を顰める。なら自首すれば良いと考えるが、そう簡単な話でもないのだろうか。

「私もアンジュみたいに魔力から個人を判別できればいいのに」

ララはため息を付く。親友は魔力質で個人の特定が可能だ。ポエテランジュの副作用で得た魔力探知能力が、アンジュの精度の高い探知で叶えられるのだ。

「まだアンジュは偽フレードとは会えていないのか」

令嬢ばかりが顔を出すも、肝心の”アルフレード”とは会えていない。以前本部で顔を合わせた時にアンジュは愚痴をこぼしていた。親友とは会えない理由があるとしか考えられない。

「会えばすぐに捕えられるだろうしな。または、会えない他の理由があるのか」

「例えば?」

「知り合いとか」

「ますます本人が怪しくなっちゃうわね!……ま、そんな人をブルナー家の方々が選ぶはずないわね。ところで、アルフレード・ランゲは魔力保持者よね?」

ビアンカの突然の問い。意図がわからずララは戸惑いながらも頷いた。

「あの”アルフレード”の術式が違った。あの閃光魔法は、周囲の魔力を利用していた。術式が3輪だったもの」

ハッとララとサーラは目を見開く。
魔法を扱えると言っても方法は多数あり、魔術師にも種類がある。
説明が長くなるために今回は割愛するが、その中で魔力がなくとも魔法を使う極簡単な方法は、星に充満する魔法を集めて、術式とリンクさせるのだ。空気や地中から魔力を集めなればならず、魔力気配が少ない場合は使える魔法に制限がかかる難点はあるが、特訓を積めば誰でも会得できる。
先程の男は、魔力を周囲から集める際に術式の中心に必ずできる魔力玉があった。術式は行く通りあっても、対外吸収の際、これだけは変わらない仕組みである。
先ほどの”アルフレード”は己の魔力を使わない方法で魔術を使用していた。単純に考えれば、先ほどの彼は魔力保持者ではない、と考えるが自然である。

「そう言えばそうだな」

「ウィリアム班長の元に行こう。写石で記憶を共有しといた方が良い」

3人は頷き合うと、場所を離れることにした。念の為結界を張り、現場を残しておく。中央本部へ向かう道すがら、他に何か違和感がなかったかと記憶を探る。

「とは言っても、私はアルフレード・ランゲと会ったのは数回だけだしねぇ」

「ララ。アルフレード・ランゲを知ってるのは君だけだ。どうだ?」

ビアンカとサーラは、アンジュの推し話で情報は頭にこびりついているが、当の本人をよく知らない。アルフレードときちんと会ったのは、2回ほど。話に聞いた通りの人物だと思った程度で、比較できるほどではない。ララは同じ学園に通っていたことや、同じ職場にいる分、2人よりも気付けるのではないか。
ララも必死に記憶を探る。仲が良くないため大して知らない親友の婚約者について、初めて記憶を振り返る。

「うぅぅーーーーーん。なんとなくだけど…手?」

「テ?」

確証はない。アルフレードには一切興味がないのだ。彼を思い浮かべてもぼやけてしまい、隣で笑う親友だけがしっかり思い出されてしまう。
それでも記憶している特徴と、齟齬があった気がするのだ。

「存分に、確かめたら良いんじゃない?」

路地から抜け出し、陽が差す道へと戻る。
ビアンカは日傘を差すと、眉を顰めて悩むララの背中を押す。

「任せたぞ、ララ!私たちの分まで頼む。このままじゃ気持ちが悪いしな。先にアンジュの借家でくつろいでる。答え合わせ、楽しみにしてるぞ」

気になるなら、確かめれば良い。
サーラには強い喝を、背中に叩きつけられた。ジンジンと痛むが、ララは笑って応える。

「ありがとう。ま、3人で本部行くのは変わんないけどね」

「感動台無し〜」

「はっはっはっ!」

なにより、1番に許可を取らねばならぬ彼女の元へ向かわねば。
3人は意気揚々と、本部へ歩き出した。
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