推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_34話:ファラデウス特別8公

どうにかロベアタの機嫌を取り持ったコルラードは、広間の真ん中でダンスを踊っている。会場の緊張もだいぶ落ち着いた。アンジュとアルフレードは、再びファラデウス特別8公と対面していた。

「アンジュさま。改めて。この度はお疲れ様です」

道化公が頭を下げる。その際にずるりと分厚いメガネがずり落ちかけるのを、また手で押さえる。彼の横に、岩流公と果実公が並ぶ。

「お元気そうでよかったです。アンジュ様」

「私に敬称は不要ですよ。お手を煩わせました」

{紛れもなく、貴方もブルナー家の者。卑下するから周りも勘違いするのです}

果実公の忠言にアンジュは苦笑で応えれば、彼はたまらずため息をついた。何度言っても治らない、アンジュの、いやブルナー家の悪癖だ。気にしないこと、気にならないことにはとことん注力しない性質。先代の果実公も時折頭を悩ませていた事だ。

「同意するけど、これがブルナーでもあるからね」

{だから、今からでも対策すべきでしょう!}

何杯目の酒をあおりながら適当に返す葉金公に、果実公は吠える。もぐもぐとご馳走で頬を膨らませる幻影公が飛んできた。

「メンドウにマキコまれたねぇ。ローランドちゃんがサイショからいればよかったのにね」

「呼び出した、アンタが言うか!」

「キャハハハハ!」

ふわふわと薄い羽根を動かす彼女に、ローランドはワナワナと唇を震わせる。
ローランドが屋敷を離れなければならなかった理由は、急遽他の公らを迎えに行かねばならなくなったからだ。元々はローランド屋敷までそれぞれやって来る手筈になっていたが、幻影公の気まぐれが発動。

ー折角全員集まるんだから、一緒に屋敷に向かった方が面白くない?!だから駅で待っててね!

一方的に連絡か入った。我儘に付き合う義理もないが、迎えに行かないなら行かないで、後から嫌な手口で仕返しされるだけ。
パーティーの進行を妻に任せ、急ぎ駅まで出向く羽目になった。急遽決まった予定変更に振り回されたのは他の公らも同じで、先に集まった面子と駅の待合室を借り1時間以上お茶を飲みながら待っていたのだ
全員集まり出発した頃には、疲労を迎えていたローランド。
ようやく屋敷でゆっくり過ごせると思った矢先に、出迎えた騒ぎ声。
正直がっくり来てしまった。
アンジュや駆けつけてくれた担当官らのおかげでどうにか騒ぎを収めたといえ、彼女が言う通り最初から会場にいればもっと違った結末を迎えれた可能性はある。
だが、原因に言われたくないものだ。怒る夫を宥めるマリーだが、幻影公のいたずらな笑顔に落ち着きそうもない。

「落ち着いてくださいよ。ローランド公。憤死しますよ」

「そこまで年寄りじゃないわ!」

今度はローランドが吠える。愉快な笑い声が広間の一角に響いた。
話に耳を傾けながら、アルフレードはじっとアンジュを捉えていた。彼女は談笑しながらも、ふと令嬢が消えていった入り口へと目を向けるのだ。憂いた、影が差す瞳。

(アンジュは、やさしすぎる)

アルフレードは彼女の手を硬く握る。彼の手にアンジュも力を込めるが、少し弱く、力無い感覚にアルフレードは胸を痛めた。

「…え、ララ?兄さん?」

「ん?」

驚きが混じる言葉。
キョロキョロと忙しなく入り口付近を確認するアンジュに、アルフレードも様子が変わった様子気づいたライオネルらも入り口へと目線を移す。
すると丁度、ララとコルラードーもちろん彼の方には相棒であるフィがいる。彼もレースのスカーフを巻いてオシャレをしているーが現れた。2人はすぐにアンジュたちに気づくと、小走りで駆け寄ってきた。

「アンジュ!話聞いたよ。怪我がなくてよかった」

「うん。うん。わぁ本物のララだ。コトレット兄さんも」

信じられないと親友の腕に触れ、兄と見比べる。くると聞いていなかったライオネルとセレストも目を丸くしている。

「アンジュが久しぶりに出席するし、綺麗な布もいただいたでしょ?僕も参加しようかと思って。ララに頼んで一緒に来てもらったんだ。この度はお招きくださりありがとうございますローランド公。皆様もお元気そうで何よりです」

「うん、よく来てくれた。なんだ、聞いてなかったのか」

「一っ切」

ララとコトレットが颯爽と挨拶をする。世界各地を飛び回る天才が、パートナーを伴い来るとは。それも色の合わせた夜会服を身に纏って。

「あらあら。まあまあ」

岩流公が口元に手を当てる。にやけそうになる頬を隠そうとしているのだ。
ララとコトレットは恋人ではない。婚約関係でもない。男女がお揃いの装いで出席するなど正式な相手だと公言する意味合いがあるのだ。

{これは明日の新聞のネタには欠かせませんな}

過度に反応して良いのかと考えあぐねるアンジュの手を取り、ララは優しく抱きしめる。何も紡がず、黙って2人は身を寄せ合う。

「…大丈夫だよ、私は。今日もとびきり綺麗だね。最高」

「ばか。分かってるんだから。アンジュも、超最高だよ」

2人は吹き出した。けたけたと朗らかな笑顔を浮かべている。
アンジュとララを優しく見守っていたアルフレードは、婚約者の肩にそっと手が置く。アンジュがアルフレードの方へ引かれた気配がしたため、ララは握りしめた手に力を入れる。
2人の間で火花が散る。

「なによ」

「悪いがそろそろ、返してくれ。アンジュは今夜俺のパートナーだ」

「はぁ?悪いと思うならもう少し親友との時間ぐらい許したら?」

「君は取る。だから嫌だ」

婚約者と親友。大好きな2人が自分をめぐり争っている。これもロマンス本でよく見る「私の生で争わないで」案件。実際に立たされると、どう対処していいのか分からない。2人を宥めようも火花を散らすばかりだ。
ララのパートナーが間に入れば纏まるのだろうが、絶賛兄と姉の追求を受けている。

「ララのドレスはあなたが用意したの?」

「…そうですけど?」

「そうですけどって。いや、コトレット。こんなお前…ウェンガー翁はご存知なのか?」

「ご存知、ですかね?」

のらりくらり。コトレットは全力で濁す。歯切れの悪い答え。他の公たちも気になっていると、色んな含みを持った目線を送るもコトレットはしらを切り通す。
彼の相棒も控えめに鳴くだけだ。

さてはて。

騒ぎが落ち着き、代わりに混沌を極めつつある夜会に、さらに驚きの来場者が現れた。

ビアンカとサーラだ。

子供の喧嘩のようになった言い合いの中、アンジュはある気配を感じた。
振り向けば、笑いを堪えるビアンカと彼女の夫と、涙を流すサーラであった。もちろんララも驚きの声を上げた。
第1夜に参加するはずの親友2人。しかしビアンカの推しであるローランドの息子と、そのご令嬢が急遽体調崩して夜会に出れなくなってしまった。肩を落とすビアンカに、推したる存在の重要性はいまいち理解していないが楽しみの一つがなくなったのは辛いだろうと、アンジュとララ、さらに8公が集まる第3夜に調節してくれたのだ。サーラも誘われ、彼女もありがたく好意に甘えることに。ビアンカの仕事が終わってから参加したため今の時間に到着したのだ。すれば色々な出来事が起こった話が聞こえてきた。

「仕事が押してしまって。もっと早く来れたら加わったのに。ごめんなさいね」

「いいんだよビアンカ。その気持ちだけで十分。私は、私がなすべきことをしたんだから。もう終わった。だから、パーティーを楽しもう」

「…そうね。今夜はマミー様もいらっしゃるんだもの!素晴らしきかなファラデウス8公皆様!万歳!」

ビアンカは意識を切り替えた。さあ、パーティーだ、推し活だ。彼女の言う通り、東区の女王マミーは滅多に表舞台に出てこない。派手な場所が苦手だからだ。お気に入りが久しぶりにパーティーに参加するから出てきたのだ。普段なら3夜に分かれて出席するのが、今夜は一堂に介している。皆様の衣裳を拝めるまたとない奇跡。親友様々だとビアンカはテンションを上げている。

「おぉん!親友2人のウェディングドレスが見える!未来の旦那とのパーティー、最高のシュチュレーション!万歳」

隣ではサーラも活動に精を出しすぎて感涙の涙を流していた。アンジュだけでなく、ララのイチャイチャも見れたのだ。歓喜万歳でもしょうがない。

「サーラ!私を巻き込むな!」

まだコトレットとは何もないララが苦言を呈するが、完全に自分の世界に入り込んだ親友には届かない。顔を真っ赤にしながら否定するララだがら、お揃いの衣装を着たままでは説得力はないし、確実に噂が広まるに違いない。
一体どうするのだと、ひたすらライオネルたちの追求を、コトレットは女子4人が仲良くしている様子を微笑みながら眺めていた。
そしてマミーは拝んでいたという。

「いやぁ、やっぱり今夜でよかった。こんなに愉快になるんだもん」

今夜11杯目のグラスを空にした葉金公が、至極楽しそうに呟いた。ニンマリと笑った幻影公が頷く。
全員、アンジュが出席する日を選んだ。表に出てこない珍しさではトップに君臨する。会える時に会っておかないと、軽く数年は経ってしまう位に珍しい。彼女がくればライオネルだけでなくブルナー家が出てくるし、今はアルフレードに彼の家族も一緒だ。彼らを肴に、酒を飲めるほど楽しい時間を送れる。この機を逃せないのだ。

「確認したいこともできました。今夜は大収穫、ですね」

「ほんと不思議な子だな、彼は。とにかく良い夜に乾杯!」

{葉金公、飲み過ぎには気をつけなされよ}


それから、それから。
交代要員で屋敷に来たセオドアがまた一騒ぎ起こしかけるのだが、それはもうまた別のお話で。
これ以上語るには、野暮。何より情報が多すぎる。

後を満たすのは空腹で十分だろう。


刻々と時間と音楽の流れに、人が増えては減って。食事もたんまりと堪能する享楽の中。

アンジュとアルフレードも、最後まで夜会を楽しんだ。

深夜を告げる鐘の音は、魔法が解ける合図。
波乱となったパーティーは、どうにか無事に幕を下ろした。



翌日。朝刊には令嬢の騒動に、アンジュたちのドレスについて大きな取り上げられていた。
中央区1番の催しは締め括られたが、ファラデウスの花祭りは続いていくのである。

そして、日常も。
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