"推したい"婚約者
2章「vs後輩」_5話
市場を離れ、アルフレードは広場近くにある大衆食堂へアンジュを案内した。
店内の雰囲気と、店を営む夫妻のやり取りが気に入り、行きつけになった店だ。
デートで行くようなおしゃれな場所ではないものの、旅好きの夫妻が旅行先で購入したお土産や絵などが店内に飾られ、メニューにも地方の料理が多数揃っている。
その中にはブルナー領のものもあり、アンジュの好物も並んでいるのだ。この店ならこれからも来やすいだろうと、アルフレードは考えた。実際に気に入ってもらえるか緊張していたが、着くなりアンジュは興味深そうに店内を見渡し、好物が並ぶメニューに目を輝かせた。料理も美味しそうに食べる姿に、アルフレードは安心した。
2人は食事を楽しみながら、様々なことを話した。近況や家族のこと、中央で流行っていること・ものや一目置いている軍学校1年生のこと…。半年ぶりの対面だ。話題は尽きることない。だが肝心の’’赤髪の女’’については切り出せず、アルフレードはどこか落ち着かずにいた。
一方アンジュは、とても、とても幸せな時間を過ごしている。アルフレードと共に、素敵な店で、美味しい料理を食べれるのだ。諦めていた予定が叶ったのが嬉しくて、楽しくてしょうがない。
ただ、アルフレードとの会話が一瞬途切れる事が気かがりであった。
(どうしたんだろう?)
アンジュは思案する。朝から訓練の準備や後輩たちの指導をした。つまり疲れているに違いない。そんな中わざわざ夕食に誘ってくれた。後輩たちの誘いを断ってまで、アンジュを優先してくれたのだ。
(早く休んでもらわないと、アルフレードまで体調を崩しちゃうな)
デザートも食べ終わり、アンジュは手を合わせた。
「美味しかった。素敵なお店に連れてきてくれてありがとう」
「もう、いいのか?」
「大満足!」
満面な笑みでアンジュは答えたのだった。
食堂は広場に近く、あっという間にアンジュの暮らす借家に着いた。彼女は婚約者と向き合い、改めてお礼を伝える。
「今夜は本当にありがとう。嬉しかった。それじゃあまたね」
しかしアルフレードは動かない。俯き、立ったままだ。アンジュは優しく名前を呼んだ。ゆっくりと顔を上げた彼は、神妙な顔つきをしていた。
「今夜、泊まってもいいだろうか」
「えっ」
思わず大きな声が出てしまい、アンジュは慌てて口を押さえる。
「……泊まる?」
聞き返せばアルフレードはしっかり頷いた。
いきなりのイベント発生にアンジュは混乱する。今までのお泊まりは、お互いの実家に、家族も含めて。2人っきりは初めてだ。
(アルフレードと?いいの?許されるの?本当に?)
「いや、婚約者だろう?」とセオドアがいれば即断じたが、生憎今は不在だ。
混乱の中アンジュは考えを巡らせる。答えを待つアルフレードを、寒い中待たせてはいけない。泊まれるか、否か。部屋は客室も含めて片付けは済んでいる。来客用の日用品も揃えてある。食べ物も買ったばかり。快適に過ごせるかは分からないが、最低限のものは全て揃ってーーーーーない。
「…服が、ない」
泊まるなら服を用意しないといけない。今着ている服を洗濯すれば明日は問題ない。今晩、寝るための服がないことにアンジュは気がついた。アルフレードは泊まる際、当然持参していた。無くとも背丈の近いセオドアの服で代わりになったが今は無い。流石にアンジュの服ではサイズが違いすぎる。
服を求め夜の街に繰り出そうとするアンジュを、アルフレードは慌てて引き止める。
「なくていい、気にしないで。今着てる服で充分だ」
「それじゃあゆっくり休めないよ」
アルフレードには無理を言っている自覚も、アンジュの語る服の重要性も理解している。しかし重要な話をできていない彼は絶対に引けない。引く訳にいかないのだ。
だがアンジュだって譲らない。寝る時はゆったりした服の方が疲れも取れる。明日も仕事なのだ。体調を崩しやすい彼のために、着心地の良いパジャマは絶対に必要だ。次の休みなら服だけで無く、全てを完璧に揃え究極の休暇を提供できる自信もある。
アンジュは説得する。アルフレードは頷かない。
「まだアンジュといたい。それに…話したいことがある」
彼の切羽詰まった声に、アンジュはただ事ではない雰囲気を感じ取った。うぬぅと低い唸り声をあげ…腹を括る。
今晩、アルフレードを泊めることにした。
店内の雰囲気と、店を営む夫妻のやり取りが気に入り、行きつけになった店だ。
デートで行くようなおしゃれな場所ではないものの、旅好きの夫妻が旅行先で購入したお土産や絵などが店内に飾られ、メニューにも地方の料理が多数揃っている。
その中にはブルナー領のものもあり、アンジュの好物も並んでいるのだ。この店ならこれからも来やすいだろうと、アルフレードは考えた。実際に気に入ってもらえるか緊張していたが、着くなりアンジュは興味深そうに店内を見渡し、好物が並ぶメニューに目を輝かせた。料理も美味しそうに食べる姿に、アルフレードは安心した。
2人は食事を楽しみながら、様々なことを話した。近況や家族のこと、中央で流行っていること・ものや一目置いている軍学校1年生のこと…。半年ぶりの対面だ。話題は尽きることない。だが肝心の’’赤髪の女’’については切り出せず、アルフレードはどこか落ち着かずにいた。
一方アンジュは、とても、とても幸せな時間を過ごしている。アルフレードと共に、素敵な店で、美味しい料理を食べれるのだ。諦めていた予定が叶ったのが嬉しくて、楽しくてしょうがない。
ただ、アルフレードとの会話が一瞬途切れる事が気かがりであった。
(どうしたんだろう?)
アンジュは思案する。朝から訓練の準備や後輩たちの指導をした。つまり疲れているに違いない。そんな中わざわざ夕食に誘ってくれた。後輩たちの誘いを断ってまで、アンジュを優先してくれたのだ。
(早く休んでもらわないと、アルフレードまで体調を崩しちゃうな)
デザートも食べ終わり、アンジュは手を合わせた。
「美味しかった。素敵なお店に連れてきてくれてありがとう」
「もう、いいのか?」
「大満足!」
満面な笑みでアンジュは答えたのだった。
食堂は広場に近く、あっという間にアンジュの暮らす借家に着いた。彼女は婚約者と向き合い、改めてお礼を伝える。
「今夜は本当にありがとう。嬉しかった。それじゃあまたね」
しかしアルフレードは動かない。俯き、立ったままだ。アンジュは優しく名前を呼んだ。ゆっくりと顔を上げた彼は、神妙な顔つきをしていた。
「今夜、泊まってもいいだろうか」
「えっ」
思わず大きな声が出てしまい、アンジュは慌てて口を押さえる。
「……泊まる?」
聞き返せばアルフレードはしっかり頷いた。
いきなりのイベント発生にアンジュは混乱する。今までのお泊まりは、お互いの実家に、家族も含めて。2人っきりは初めてだ。
(アルフレードと?いいの?許されるの?本当に?)
「いや、婚約者だろう?」とセオドアがいれば即断じたが、生憎今は不在だ。
混乱の中アンジュは考えを巡らせる。答えを待つアルフレードを、寒い中待たせてはいけない。泊まれるか、否か。部屋は客室も含めて片付けは済んでいる。来客用の日用品も揃えてある。食べ物も買ったばかり。快適に過ごせるかは分からないが、最低限のものは全て揃ってーーーーーない。
「…服が、ない」
泊まるなら服を用意しないといけない。今着ている服を洗濯すれば明日は問題ない。今晩、寝るための服がないことにアンジュは気がついた。アルフレードは泊まる際、当然持参していた。無くとも背丈の近いセオドアの服で代わりになったが今は無い。流石にアンジュの服ではサイズが違いすぎる。
服を求め夜の街に繰り出そうとするアンジュを、アルフレードは慌てて引き止める。
「なくていい、気にしないで。今着てる服で充分だ」
「それじゃあゆっくり休めないよ」
アルフレードには無理を言っている自覚も、アンジュの語る服の重要性も理解している。しかし重要な話をできていない彼は絶対に引けない。引く訳にいかないのだ。
だがアンジュだって譲らない。寝る時はゆったりした服の方が疲れも取れる。明日も仕事なのだ。体調を崩しやすい彼のために、着心地の良いパジャマは絶対に必要だ。次の休みなら服だけで無く、全てを完璧に揃え究極の休暇を提供できる自信もある。
アンジュは説得する。アルフレードは頷かない。
「まだアンジュといたい。それに…話したいことがある」
彼の切羽詰まった声に、アンジュはただ事ではない雰囲気を感じ取った。うぬぅと低い唸り声をあげ…腹を括る。
今晩、アルフレードを泊めることにした。