シンデレラ・スキャンダル
龍介さんが遠い存在なのだと実感しに行くようなもの。どんなに手を伸ばしても、どんなに欲しいと願っても、彼にその手が届くことはないのかもしれないと思うと、目の前が真っ黒に塗りつぶされていくみたいだ。

「優斗、綾乃」

優しい声に振り返れば、その声の持ち主がゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。

「そろそろ飯くるよ」

龍介さんはわたし達のところまで来ると、わたしに手を差し出す。その手に手を重ねれば、力強く支えて立たせてくれる。

「なに話してたの?」

「ライブの話です」

「年末からの? 綾乃来る? 席、用意するよ」

「ほら、綾乃おいでよ。龍介さんと俺が歌うんだよ。格好いいから」

「そういえば、今回のツアーは幕張に行くよ。ちょうどクリスマスの日にライブだったかな」

「そう! クリスマス! 俺の誕生日。だから来て」

「優くん誕生日なの? わたしもクリスマス誕生日」

「マジ!? 二十五?」

優くんの問いかけに頷けば、わたしの手を握る人に引き寄せられた。

「綾乃、誕生日ならお祝いしようよ。ライブが終わったら、一緒に。予定ある?」

「ない、です。でも、ライブの日になんて」

「ライブ中だから盛大なお祝いはできないし、ホテルの部屋とかになっちゃうけど、少しだけなら時間作れるから」

龍介さんは、少し申し訳なさそうに、そして少し照れたようにそう言った。
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