シンデレラ・スキャンダル
——日本に帰ってから。さらりと告げられたその言葉に、心臓が冷たく縮み上がった。彼は、疑いもせずに「続き」があることを信じている。

でも、わたしにはその未来が、あまりにも遠いお伽話のように思える。日本には、LegacyのRYUという、手の届かない彼がいるだけなのに。

「……ね?」

龍介さんの言葉を疑っているわけじゃない。そういうわけじゃないのに、すぐに言葉が出てこない。無邪気な彼の問いかけに、わたしは嘘をつくようにして、深く頷くことしかできなかった。

「綾乃は千葉の……えっと、なんだったっけ?」

検見川(けみがわ)です。知ってる人は少ないですけど」

「そうそう、ケミガワ」

カタコトの検見川(けみがわ)検見川(けみがわ)と言いながら、少しもピンときていないみたい。少し不思議そうにしている彼に、「幕張の隣です」と告げると、初めて場所がわかったようで、「ああ」と大きな声が彼から発せられた。海まで走って十分かからない距離だと言うと、彼は本当に羨ましそうに、「いいな」と溢した。

「稲毛の浜ってわかります? ブラックアンドの歌詞にでてきて」

「あ! わかるよ! わかる!」

「幕張の浜と稲毛の浜の間にあるのが、検見川(けみがわ)の浜です」

彼から自然に日本に帰ってからでいいと言われるけれど、日本でもこの関係が続くのだろうか。日本では、こうして彼と一緒に過ごすことなんて中々できないのではないだろうか。中々会うこともできなくて、同じ世界にいるわけでもなくて。そんな芸能人と一般人との恋は、わたしと彼は、どうなっていくのだろう。

日本でも一緒にいてくれるのだと素直に喜ぶこともできず、日本ではどうせ続かないと潔く諦めることもできず、ただ彼の言葉に曖昧な笑顔しか返せない。
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