シンデレラ・スキャンダル


 あっという間に最後の瞬間が訪れた。送別会はお開きの時間を迎え、とうとう彼女たちとの別れを告げる時が来たのだ。

 両手で抱えきれないほどの花束を持っている栞ちゃんの大きな瞳は、真っ赤に腫れている。今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えている様子が痛々しいほどだ。涙が溢れて止まらないのはお互い様で、わたしも胸がいっぱいで言葉が出ない。わたしたちは、お互いの顔を見て、まるで幼い子供のように、泣きながら笑い出した。こんなにぐしゃぐしゃになった顔を見せるのも、もう最後かもしれない。

 鏡の前で、あれだけ時間をかけて綺麗に整えたマスカラも、アイラインも、もうその形を成していない。目尻に(にじ)んだ黒いラインが、いまのわたしたちの感情を物語っている。栞ちゃんから百合の花がたくさん入った、ずっしりと重い花束を受け取る。純白の百合が、彼女の清らかな心を表しているようだ。

「綾乃さん……」

 声を振り絞るように、栞ちゃんがわたしの名前を呼ぶ。その震える声に、わたしの胸も締め付けられる。

「栞ちゃん、今までありがとう」

「ありがとうございました。これから頑張っていきます」

「これからは、栞ちゃんが秘書課トップよ。でも、辛い時、苦しい時は、周りを頼ることも大切。頼るところはきちんと頼ってね」

 わたしは感謝の気持ちを込めて、彼女の頭を優しく撫でた。さらりとした髪の感触が、別れを一層寂しくさせる。

「はい」

「栞ちゃんに、人に頼ることの大切さを教えてもらったのは、わたしの方かもしれないね。これからは先輩と後輩じゃなくて、友達としてよろしくね」

「はい……うう」

 こうして、愛する後輩一人一人と別れの挨拶を交わす。それぞれが涙を拭い、決意を新たにする姿を見て、わたしの心も少しずつ落ち着いていった。
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