シンデレラ・スキャンダル
 そして、卓也は応接室の中央に据えられた、茶色の革張りのソファに悠然と腰を下ろした。深く腰掛け、肘掛けに片腕を乗せ、リラックスした様子でわたしを見上げる。

「まあ、座りなよ」

 その仕草一つ一つが、この場所、この状況を支配しているようだ。それでも、わたしはその視線から逃げることなく、部屋の片隅にある、硬いファブリックの椅子に浅く腰掛ける。

「で、結局、別のところ泊まってたんだって?」

 目の前でカップを傾ける男は、薄い笑みを浮かべてこちらを見ている。

「そうよ」

「わざわざ別のホテルとったの? あのオーナーそんなに嫌だった?」

 心配する素振りも見せずに面白そうに笑って、そう投げかけるこの男は、やっぱり今までと変わらない。

「行っちゃえば良かったのに。綾乃は堅すぎるんだよ。あの人、金は持ってんじゃない? いくつもああいう別荘持ってるみたいだし。ハワイで豪遊できたかもよ」

「……そういうのは、いらない」

「つまんないねえ。ハワイまで行ったのに」

「わたしは、嫌だったの。彼の態度も、下心のある目つきも、何もかも」

「遊ぶくらいどうってことないだろ」

 伝わらない。どうしたって分かり合えないものがある。必死になってその基準に合わせようとしていたけれど、もうそれはできない。 目の前に座る卓也の顔を見つめた。

「で、ホテルはいくらかかった? オーナーに払った二十万と一緒にだしてやるよ」

 まるで施しを与えるかのように、無造作な声と言葉。卓也にとって、金で解決できない問題などないのだろう。

「いらない」

 拒絶の言葉に、卓也は一瞬、眉をひそめる。

「……は?」

「いらない。飛行機代も払うわ」

「なに、どうしたの。飛行機代なんか別にいらないよ? たかが知れてるだろ」

 卓也は、苛立ちを隠そうともせず、声を荒げる。まるで、わたしが面倒な意地を張っているだけだとでも言いたげな口調で。

「わたしのお給料、全部、飛行機代に充てて」

「綾乃、いい加減にしろ。意地張らずに金くらい受け取れよ」
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