シンデレラ・スキャンダル
4話 招待状
これが日本ならわたしたちは話をすることも、名前を知ることもなかったかもしれない。きっと異国の地がそうさせる。これが特別なものだと感じさせる。頭の片隅でこれは幻だと誰かが言うのに、また誰かがこれは特別だと彼を知りたいと訴える。
「どこら辺に泊まるの? 帰れる? 送ろうか? って言ってもレンタカーまだ借りてないからタクシーだけど」
「たぶん大丈夫です。良くわかってはいないんですけど、荷物をおいてきて」
「なんていうホテル?」
「えっと……あ、住所書いてある地図が」
肩にかけた小さなバッグの中から小さく折りたたまれた紙を取り出して、彼に見せる。
「ん……あれ。これ、バケーションレンタルじゃない? 貸し別荘っていうのかな」
「ああ、そうらしいです。レンタルハウスだって」
「やっぱり? 俺もそうなんだ。俺が借りるところとすごく近いかも。あそこら辺にホテルはないから」
「そうなんですか」
「うん……綾乃ちゃんさ、オーナーってどんな人だった?」
「オーナー?」
「そう。女性?」
「いえ、男性でしたけど」
「……そっか」
龍介さんが顎に手を当てて、何かを考えているように視線を彷徨わせる。そして、わたしを見てまた視線を外す。その視線に応えるように、頭を傾けてみる。
「いや、あのさ。一人なんだよね?」
「そうですね」
「海外、初めてなんだよね?」
「そうです」
「……大丈夫?」
「え?」
「慣れてるならまだいいとは思うけど、綾乃ちゃんみたいな女の子が一人でこういうところに泊まるのは、やっぱり……」
「危ないですかね」
そう言いながら、いつの間にか俯いていた。
オーナーのケンも、さっきの男たちも、わたしが一人じゃなかったら、ああいう態度ではなかったかもしれない。ハワイならなんとかなると思っていたけれど、やはりここは外国。日本とは勝手が違う。
「どれくらいハワイにいるの?」
わたしの様子を見て更に心配になったのか、龍介さんが顔を覗き込みながら、とても優しい声色で聞いてきた。子供に話しかけるようなその声に、わたしの心は更に揺れる。
「十日間です」
「そっか……うん。そしたらさ、もし綾乃ちゃんが良ければだけど、こっちに来る? 俺も今回は二週間くらいいるんだけど、スタッフとか他の人もいるし。五つベッドルームがあって一部屋余ってるから」
「え……」
予想外の提案に、言葉が詰まる。いくらスタッフがいるとはいえ、今日出会ったばかりの男性の家に行くというのは、普通なら即座に断る場面だ。けれど、脳裏によぎるのは、あの静かすぎるレンタルハウスと、オーナーのねっとりとした視線。それに比べて、目の前の彼の瞳は、驚くほど澄んでいる。
迷っているわたしを見透かしたように、彼がふっと表情を緩めた。そして、帽子の上からわたしの頭をぽんっと撫でた。
「とりあえず、これからこっちにいる友達の家族と集まるから、それはおいでよ。帰りはちゃんと送っていく」
「でも」
「飯は一人で食うより、みんなと一緒に食った方が絶対うまいよ」
穏やかにそう言って、こちらを覗き込みながら「ね?」と柔らかく瞳を細める。その笑顔を見ると、もう否定の言葉が出て来なくて、わたしは気付いたら頷いていた。
「どこら辺に泊まるの? 帰れる? 送ろうか? って言ってもレンタカーまだ借りてないからタクシーだけど」
「たぶん大丈夫です。良くわかってはいないんですけど、荷物をおいてきて」
「なんていうホテル?」
「えっと……あ、住所書いてある地図が」
肩にかけた小さなバッグの中から小さく折りたたまれた紙を取り出して、彼に見せる。
「ん……あれ。これ、バケーションレンタルじゃない? 貸し別荘っていうのかな」
「ああ、そうらしいです。レンタルハウスだって」
「やっぱり? 俺もそうなんだ。俺が借りるところとすごく近いかも。あそこら辺にホテルはないから」
「そうなんですか」
「うん……綾乃ちゃんさ、オーナーってどんな人だった?」
「オーナー?」
「そう。女性?」
「いえ、男性でしたけど」
「……そっか」
龍介さんが顎に手を当てて、何かを考えているように視線を彷徨わせる。そして、わたしを見てまた視線を外す。その視線に応えるように、頭を傾けてみる。
「いや、あのさ。一人なんだよね?」
「そうですね」
「海外、初めてなんだよね?」
「そうです」
「……大丈夫?」
「え?」
「慣れてるならまだいいとは思うけど、綾乃ちゃんみたいな女の子が一人でこういうところに泊まるのは、やっぱり……」
「危ないですかね」
そう言いながら、いつの間にか俯いていた。
オーナーのケンも、さっきの男たちも、わたしが一人じゃなかったら、ああいう態度ではなかったかもしれない。ハワイならなんとかなると思っていたけれど、やはりここは外国。日本とは勝手が違う。
「どれくらいハワイにいるの?」
わたしの様子を見て更に心配になったのか、龍介さんが顔を覗き込みながら、とても優しい声色で聞いてきた。子供に話しかけるようなその声に、わたしの心は更に揺れる。
「十日間です」
「そっか……うん。そしたらさ、もし綾乃ちゃんが良ければだけど、こっちに来る? 俺も今回は二週間くらいいるんだけど、スタッフとか他の人もいるし。五つベッドルームがあって一部屋余ってるから」
「え……」
予想外の提案に、言葉が詰まる。いくらスタッフがいるとはいえ、今日出会ったばかりの男性の家に行くというのは、普通なら即座に断る場面だ。けれど、脳裏によぎるのは、あの静かすぎるレンタルハウスと、オーナーのねっとりとした視線。それに比べて、目の前の彼の瞳は、驚くほど澄んでいる。
迷っているわたしを見透かしたように、彼がふっと表情を緩めた。そして、帽子の上からわたしの頭をぽんっと撫でた。
「とりあえず、これからこっちにいる友達の家族と集まるから、それはおいでよ。帰りはちゃんと送っていく」
「でも」
「飯は一人で食うより、みんなと一緒に食った方が絶対うまいよ」
穏やかにそう言って、こちらを覗き込みながら「ね?」と柔らかく瞳を細める。その笑顔を見ると、もう否定の言葉が出て来なくて、わたしは気付いたら頷いていた。