シンデレラ・スキャンダル
6話 夕陽に溶けていく
◇
オーブンでチキンが焼かれて、部屋中に食欲をそそる香りが漂い始めると、どこからともなく胃が空腹を訴える音が聞こえた。その音の元を探して辺りを見渡すと、テーブルに突っ伏す二人の姿。
「龍介さん?」
「腹減って死ぬ」
「リサも。まだぁ?」
同じ体勢の二人は同じくお腹が空いたらしい。太陽はちょうど空の真上にきていて、この地に昼の時間が訪れていることを知らせていた。
テーブルに料理が運ばれると、二人は目を輝かせてそれを口に運ぶ。見事に重なるその姿にこちらは笑いが止まらない。そして、二人はひとしきり食べると、キッチンに向かい、飲み物を物色し始めた。
「何にしようかなぁ」
「リサはね~」
「あ、俺、シャンパーン」
「リサはジンジャーエール! ねえ、リュウとって!」
お互いのコップに注ぎ、プハーという声が聞こえてきそうないい飲みっぷりを披露してくれる二人。
「なんか、もう……そっくりですね」
「リュウに懐きすぎて、似てきちゃったのよね」
「俺がお父さんなのにねぇ」
「リュウは優しいし子供が大好きなのよ。見た目とは違うでしょう」
「……そうですね、本当に違います。飛行機で会ったときは……それはもう怖い人だと思いましたから。関わったら危ないって」
わたしは正直な感想を漏らした。あのときの龍之介さんの見た目の威圧感は凄まじく、飛行機でなかったら、わたしは一目散に逃げ出していたと思う。
それを聞いた潤さんと忍さんは、堪えきれなかったように、大きな口を開けながら、のけぞって大笑いし始めた。二人とも腹を抱え、涙目になっている。
「あはは! やっぱり綾乃もそう思ったのね! 誰もが通る道よ、それ!」
「本当に、あいつは見た目と中身のギャップがすごいから、みんな初見は戸惑うんだよな」
二人の笑い声がリビングに響き渡る。わたしもつられて少し笑ってしまったが、たしかに、これほどまでに外見と内面が乖離している人間に会ったのは初めてかもしれない。忍さんは、笑いすぎて少しぜいぜいと肩で息をしながら、紅茶を一口飲んだ。
「それにしても、飛行機で会って、まさかスーパーマーケットでも会うなんて、本当に偶然よね」
「はい、本当に驚きました。まさかこんな形でまたお会いするなんて、夢にも思いませんでしたから」
「そうだよね。で、綾乃は、いつも一人でハワイに来てるの? 今回も?」
潤さんの質問に、わたしは戸惑いつつも答えた。
「初めてです。ハワイも海外も。友人と一緒に来るはずだったんですけど、出発直前で、その人が急に来れなくなってしまったので……」
「へえ、そうなの。それは残念だったね。ちなみに、その来れなくなった友達って……男?」
「そう、ですね……」
答えた自分の声が、蚊の鳴くようにとても小さかったのは、きっと気のせいではないだろう。
「あら、綾乃は恋人いたのね」
「恋人は……いないです」
「え? 恋人じゃないの?」
「元、恋人ですね」
自分でも驚くほどあっさりとそう口にした。そして、その事実に、自虐的な渇いた笑いが無意識に唇から零れた。
卓也との話を人にするときは、いつも呆れられることを前提に話している。まともな恋愛経験のある人から見れば、自分たちの関係はあまりにも奇妙で、理解しがたいものなのだろう。
別れてから六年。それだけの長い年月、きちんと付き合うわけでもなく、かと言ってきっぱりと離れるわけでもなく、白黒をつけないまま、ただ惰性で一緒に過ごしている関係。そんな関係を、人が不思議に思うのは当たり前。
オーブンでチキンが焼かれて、部屋中に食欲をそそる香りが漂い始めると、どこからともなく胃が空腹を訴える音が聞こえた。その音の元を探して辺りを見渡すと、テーブルに突っ伏す二人の姿。
「龍介さん?」
「腹減って死ぬ」
「リサも。まだぁ?」
同じ体勢の二人は同じくお腹が空いたらしい。太陽はちょうど空の真上にきていて、この地に昼の時間が訪れていることを知らせていた。
テーブルに料理が運ばれると、二人は目を輝かせてそれを口に運ぶ。見事に重なるその姿にこちらは笑いが止まらない。そして、二人はひとしきり食べると、キッチンに向かい、飲み物を物色し始めた。
「何にしようかなぁ」
「リサはね~」
「あ、俺、シャンパーン」
「リサはジンジャーエール! ねえ、リュウとって!」
お互いのコップに注ぎ、プハーという声が聞こえてきそうないい飲みっぷりを披露してくれる二人。
「なんか、もう……そっくりですね」
「リュウに懐きすぎて、似てきちゃったのよね」
「俺がお父さんなのにねぇ」
「リュウは優しいし子供が大好きなのよ。見た目とは違うでしょう」
「……そうですね、本当に違います。飛行機で会ったときは……それはもう怖い人だと思いましたから。関わったら危ないって」
わたしは正直な感想を漏らした。あのときの龍之介さんの見た目の威圧感は凄まじく、飛行機でなかったら、わたしは一目散に逃げ出していたと思う。
それを聞いた潤さんと忍さんは、堪えきれなかったように、大きな口を開けながら、のけぞって大笑いし始めた。二人とも腹を抱え、涙目になっている。
「あはは! やっぱり綾乃もそう思ったのね! 誰もが通る道よ、それ!」
「本当に、あいつは見た目と中身のギャップがすごいから、みんな初見は戸惑うんだよな」
二人の笑い声がリビングに響き渡る。わたしもつられて少し笑ってしまったが、たしかに、これほどまでに外見と内面が乖離している人間に会ったのは初めてかもしれない。忍さんは、笑いすぎて少しぜいぜいと肩で息をしながら、紅茶を一口飲んだ。
「それにしても、飛行機で会って、まさかスーパーマーケットでも会うなんて、本当に偶然よね」
「はい、本当に驚きました。まさかこんな形でまたお会いするなんて、夢にも思いませんでしたから」
「そうだよね。で、綾乃は、いつも一人でハワイに来てるの? 今回も?」
潤さんの質問に、わたしは戸惑いつつも答えた。
「初めてです。ハワイも海外も。友人と一緒に来るはずだったんですけど、出発直前で、その人が急に来れなくなってしまったので……」
「へえ、そうなの。それは残念だったね。ちなみに、その来れなくなった友達って……男?」
「そう、ですね……」
答えた自分の声が、蚊の鳴くようにとても小さかったのは、きっと気のせいではないだろう。
「あら、綾乃は恋人いたのね」
「恋人は……いないです」
「え? 恋人じゃないの?」
「元、恋人ですね」
自分でも驚くほどあっさりとそう口にした。そして、その事実に、自虐的な渇いた笑いが無意識に唇から零れた。
卓也との話を人にするときは、いつも呆れられることを前提に話している。まともな恋愛経験のある人から見れば、自分たちの関係はあまりにも奇妙で、理解しがたいものなのだろう。
別れてから六年。それだけの長い年月、きちんと付き合うわけでもなく、かと言ってきっぱりと離れるわけでもなく、白黒をつけないまま、ただ惰性で一緒に過ごしている関係。そんな関係を、人が不思議に思うのは当たり前。