シンデレラ・スキャンダル
8話 シンデレラを守るのは
◇◇◇
窓の外から眩しい程の光が降り注ぐ。静まり返った部屋の中、ゆっくりと大きなベッドの上で起き上がる。
軽くシャワーを浴びて、髪を一つに束ねると、トレーニングウェアを纏って広いリビングでストレッチを始めた。体幹を鍛えるために四つん這いになって、脚を上げたり下げたりするだけでどっと汗をかいてくる。オフィス近くのパーソナルトレーニングジムで教えてもらったメニューは地味だけど、よく効いているような気がする。
そして、そのままの格好で外に出ると、ゆっくりと歩き始めた。そこは、やはり青と緑と白の世界。空気が透き通っている気がして、その気持ちよさに少しスピードを上げて走ると、風が流れていく。
歩いたり、走ったりを繰り返して一時間が経った頃、家に戻ると、大きな白い車が玄関先に停まっていた。空港に迎えに来てくれた車と同じような気がして、首を傾げる。オーナーのケンが待っているのかと車の中を覗いたけれど、そこには誰もいない。
辺りを見回してみても、誰かいる気配がない。不思議に思いながら、家のドアに鍵を差し込んで回そうとした瞬間、背中がひやりと冷たくなる。家を出るときに、何度もかけたことを確認した鍵が既に開いている。
もしかしたら泥棒が入って、セキュリティか何かでケンが駆け付けたのかもしれない。きっとそう、きっと。だって、もしもそうじゃなかったら、これはどういうことだろう。来ているのはケンで、家の中にいるのなら、それは何のためだろう。昨日のケンの眼差しを思い出して手が震えた。
「……いや、でも」
小さく首を横に振って、ドアを開ける。音を立てないようにしてリビングに進んでいくと、ソファの上で寛ぎながらテレビを見ている男の姿があった。紛れもなく、オーナーのケン。
「……ケン? 何を、してるの?」
わたしの声にケンは少し驚きながら振り向いたけれど、すぐにその顔に笑顔を張り付けた。
「おはよう綾乃! 綾乃が心配で来たんだ」
「どうして部屋の中に」
「僕の家だよ。当たり前じゃないか」
「でも、わたしが借りてるのよ」
「そんなことより、一人は寂しいだろう。僕がハワイを案内してあげるよ」
わたしが伝えたいことはわかっているはずなのに、それに言い訳さえせずに話を進める男にわたしの手は震えを増していく。
喉が張り付いたようになって、声が出てこない。今、何かされたら叫ぶこともできない。きっと男性がいれば、こんなことはあり得ないはず。それでも、ここにはわたししかいない。恐怖を打ち消そうと痛みを覚えるほどに、握る拳に力を込める。
「い、いや。一人でいい」
「そんな遠慮しないで。今日は素敵なビーチに連れて行ってあげるよ」
「今日は一人で買い物に行きたいの。もう決めてるから」
「そう? それなら、ディナーは一緒に食べよう。夜来るから」
「いらない」
「綾乃、一人だろう? 夜来るよ。一緒に過ごそう。二人で」
さっきまで汗ばんでいた体が一気に冷えて、全身が震えだす。ケンは不敵な笑みを浮かべて出ていった。エンジン音が少しずつ遠ざかっていく。
上手く動かない震える体を無理やり動かして、玄関に行き、意味があるのかわからない鍵をかけた。夜に来ると言ったあの人は、わたしが鍵をかけていても、それを開けて入ってくるのだ。さっきだって、わたしがいない家の鍵を開けて入ったことを悪びれる様子もなかった。
窓の外から眩しい程の光が降り注ぐ。静まり返った部屋の中、ゆっくりと大きなベッドの上で起き上がる。
軽くシャワーを浴びて、髪を一つに束ねると、トレーニングウェアを纏って広いリビングでストレッチを始めた。体幹を鍛えるために四つん這いになって、脚を上げたり下げたりするだけでどっと汗をかいてくる。オフィス近くのパーソナルトレーニングジムで教えてもらったメニューは地味だけど、よく効いているような気がする。
そして、そのままの格好で外に出ると、ゆっくりと歩き始めた。そこは、やはり青と緑と白の世界。空気が透き通っている気がして、その気持ちよさに少しスピードを上げて走ると、風が流れていく。
歩いたり、走ったりを繰り返して一時間が経った頃、家に戻ると、大きな白い車が玄関先に停まっていた。空港に迎えに来てくれた車と同じような気がして、首を傾げる。オーナーのケンが待っているのかと車の中を覗いたけれど、そこには誰もいない。
辺りを見回してみても、誰かいる気配がない。不思議に思いながら、家のドアに鍵を差し込んで回そうとした瞬間、背中がひやりと冷たくなる。家を出るときに、何度もかけたことを確認した鍵が既に開いている。
もしかしたら泥棒が入って、セキュリティか何かでケンが駆け付けたのかもしれない。きっとそう、きっと。だって、もしもそうじゃなかったら、これはどういうことだろう。来ているのはケンで、家の中にいるのなら、それは何のためだろう。昨日のケンの眼差しを思い出して手が震えた。
「……いや、でも」
小さく首を横に振って、ドアを開ける。音を立てないようにしてリビングに進んでいくと、ソファの上で寛ぎながらテレビを見ている男の姿があった。紛れもなく、オーナーのケン。
「……ケン? 何を、してるの?」
わたしの声にケンは少し驚きながら振り向いたけれど、すぐにその顔に笑顔を張り付けた。
「おはよう綾乃! 綾乃が心配で来たんだ」
「どうして部屋の中に」
「僕の家だよ。当たり前じゃないか」
「でも、わたしが借りてるのよ」
「そんなことより、一人は寂しいだろう。僕がハワイを案内してあげるよ」
わたしが伝えたいことはわかっているはずなのに、それに言い訳さえせずに話を進める男にわたしの手は震えを増していく。
喉が張り付いたようになって、声が出てこない。今、何かされたら叫ぶこともできない。きっと男性がいれば、こんなことはあり得ないはず。それでも、ここにはわたししかいない。恐怖を打ち消そうと痛みを覚えるほどに、握る拳に力を込める。
「い、いや。一人でいい」
「そんな遠慮しないで。今日は素敵なビーチに連れて行ってあげるよ」
「今日は一人で買い物に行きたいの。もう決めてるから」
「そう? それなら、ディナーは一緒に食べよう。夜来るから」
「いらない」
「綾乃、一人だろう? 夜来るよ。一緒に過ごそう。二人で」
さっきまで汗ばんでいた体が一気に冷えて、全身が震えだす。ケンは不敵な笑みを浮かべて出ていった。エンジン音が少しずつ遠ざかっていく。
上手く動かない震える体を無理やり動かして、玄関に行き、意味があるのかわからない鍵をかけた。夜に来ると言ったあの人は、わたしが鍵をかけていても、それを開けて入ってくるのだ。さっきだって、わたしがいない家の鍵を開けて入ったことを悪びれる様子もなかった。