シンデレラ・スキャンダル
3章 魔法がかけられて
9話 コバルトブルー
◇
店の前まで迎えに来てくれた彼は優しく微笑んで、わたしが被る帽子の上から頭を優しく撫でてくれる。
「龍介さん、ごめんなさい。わたし、一緒に泊まるはずだった人に連絡したんですけど。あの」
「大丈夫だよ。とりあえず、そのオーナーに連絡しよう。鍵とか諸々返さないと」
「……そうですよね」
「あ、俺が電話するから。綾乃ちゃんはもう会わなくていいようにするから平気。無事でよかった」
龍介さんは大きな手をわたしの肩に置いて、そして肩を抱くようにして歩くのを促してくれる。
龍介さんは、本当に優しく、そっとわたしに触れる。声と同じように穏やかに。だから、わたしは龍介さんに触れられる度に、いつの間にか彼との距離を縮めてしまうのかもしれない。
タクシーの傍まで行き、ドアを開けてわたしだけを座らせると、龍介さんは携帯電話を取り出した。
「綾乃ちゃん、オーナーの番号教えて。電話しよう」
「あ、はい」
ケンが電話に出たのか、少しわたしから離れて龍介さんが英語で話し始める。聞いていても、半分ほどしか言っている意味は分からない。
最初は穏やかだった彼の声色が、突然低くなった。何を言っているのかは分からない。けれど、その短い英単語の羅列に、ナイフのような鋭さが混じっているのを感じて、背筋が冷たくなる。思わず駆け寄り、彼のシャツの裾を掴んだ。
彼は一瞬こちらを見て、すぐに目を細めた。わたしを安心させるような、いつもの柔らかい瞳。
裾を掴んだわたしの手を大きな彼の手で包み込んだ。龍介さんの手は温かいと言うよりも、少し熱い。その熱さが、息を深くする。彼の肩に頭を預けると、ふわりと甘い香水の匂いに包まれた。
(甘えてばかりだな。頼ってばかり)
そう思うのに、龍介さんの傍から離れたくない。龍介さんの声が聞こえて、温もりがそこにあって。その全てに引き寄せられるみたい。
「……Okay」
電話が終わった雰囲気を感じて見上げれば、龍介さんが優しく微笑んでいた。
「よし、完了。荷物取りに行こうか」
「龍介さん、ありがとうございます。それとごめんなさい。嫌な思いさせて」
「大丈夫だって、これくらい」
「でも、大人なのに……」
大人のくせにこんなことさえも解決できない、昨日今日知り合った人に頼ってばかりだと呆れないだろうか、そう思って龍介さんを見つめたのに。
「俺は頼ってもらえて嬉しいよ」
「うれしい?」
わたしの疑問なんて聞こえていないのか、「じゃあ、行こうか」そう楽しそうに言うと、繋いだ手をそのままにして、彼が歩き出してタクシーに戻る。わたしは少し前を行く背中を見つめながら、安心していく一方で、大きな音をたて始める心臓に戸惑っていた。
店の前まで迎えに来てくれた彼は優しく微笑んで、わたしが被る帽子の上から頭を優しく撫でてくれる。
「龍介さん、ごめんなさい。わたし、一緒に泊まるはずだった人に連絡したんですけど。あの」
「大丈夫だよ。とりあえず、そのオーナーに連絡しよう。鍵とか諸々返さないと」
「……そうですよね」
「あ、俺が電話するから。綾乃ちゃんはもう会わなくていいようにするから平気。無事でよかった」
龍介さんは大きな手をわたしの肩に置いて、そして肩を抱くようにして歩くのを促してくれる。
龍介さんは、本当に優しく、そっとわたしに触れる。声と同じように穏やかに。だから、わたしは龍介さんに触れられる度に、いつの間にか彼との距離を縮めてしまうのかもしれない。
タクシーの傍まで行き、ドアを開けてわたしだけを座らせると、龍介さんは携帯電話を取り出した。
「綾乃ちゃん、オーナーの番号教えて。電話しよう」
「あ、はい」
ケンが電話に出たのか、少しわたしから離れて龍介さんが英語で話し始める。聞いていても、半分ほどしか言っている意味は分からない。
最初は穏やかだった彼の声色が、突然低くなった。何を言っているのかは分からない。けれど、その短い英単語の羅列に、ナイフのような鋭さが混じっているのを感じて、背筋が冷たくなる。思わず駆け寄り、彼のシャツの裾を掴んだ。
彼は一瞬こちらを見て、すぐに目を細めた。わたしを安心させるような、いつもの柔らかい瞳。
裾を掴んだわたしの手を大きな彼の手で包み込んだ。龍介さんの手は温かいと言うよりも、少し熱い。その熱さが、息を深くする。彼の肩に頭を預けると、ふわりと甘い香水の匂いに包まれた。
(甘えてばかりだな。頼ってばかり)
そう思うのに、龍介さんの傍から離れたくない。龍介さんの声が聞こえて、温もりがそこにあって。その全てに引き寄せられるみたい。
「……Okay」
電話が終わった雰囲気を感じて見上げれば、龍介さんが優しく微笑んでいた。
「よし、完了。荷物取りに行こうか」
「龍介さん、ありがとうございます。それとごめんなさい。嫌な思いさせて」
「大丈夫だって、これくらい」
「でも、大人なのに……」
大人のくせにこんなことさえも解決できない、昨日今日知り合った人に頼ってばかりだと呆れないだろうか、そう思って龍介さんを見つめたのに。
「俺は頼ってもらえて嬉しいよ」
「うれしい?」
わたしの疑問なんて聞こえていないのか、「じゃあ、行こうか」そう楽しそうに言うと、繋いだ手をそのままにして、彼が歩き出してタクシーに戻る。わたしは少し前を行く背中を見つめながら、安心していく一方で、大きな音をたて始める心臓に戸惑っていた。