シンデレラ・スキャンダル
 そういえば、今朝の電車の中刷り広告に、Legacyのボーカルが体調不良と出ていた。声が出ないのは、精神的に病んでいるからだとかいう見出しとともに。そして、千葉の薬物厚生施設にボランティアで通っているのは、自身が薬物をしていることに対するカモフラージュではないかとも書かれていた。

 いくら芸能人といえども、こんな記事を書かれてしまうなんて、あまりにも気の毒だ。

 テレビを見ないわたしでも、Legacyという名前といくつかの曲なら知っているし、聞いたこともある。音楽賞をことごとく取っている人たち。ボーカル自ら作る曲、本格的な歌にダンス。曲にしても歌詞にしても、確かに良いのかもしれない。聞いているだけなら。

 彼らを初めて知った時は衝撃を受けた。五人いるメンバーのうち、メインボーカルを務める一人は、坊主頭にサングラス。ファーがついたド派手な衣装に身を包み、見下ろすようにこちらに視線を向けている。

 ポスターの中の彼らは、誰一人として笑っていない。威嚇(いかく)するように睨みつける目、これ見よがしに露出した筋肉、そして肌を覆うタトゥー。最近流行りの、中性的で柔らかな笑顔を振りまくアイドルたちとは対極にいる。

 まるで、「俺たちに近づくと火傷するぜ」とでも言いたげな、過剰なまでの男臭さ。

(……苦手だ)

 こういう、無駄に熱くて、分かりやすく強がっているタイプの手合いは。わたしの人生には、一ミリも必要ない人種。

「怖いでしょ」

「男らしくていいんですよ! それに見た目と違ってひたむきで、純粋で優しい人たちなんです!」

「……そう」

「ファンのことも大切にしてますし。常に挑戦して、常識を覆していくエンターテイメント集団なんですよ!」

 そう彼女が熱っぽく語る、彼らのテーマは愛と夢、そして幸せ。なんとも壮大。溜息もの。更生施設への訪問や少年院への慰問、震災復興支援などを積極的に行うらしい。

 その話が本当なら、彼らは夢と愛を持ったヒーローだ。夢追い人。わたしとはかけ離れた存在。わたしはそんな目に見えないものは欲しくない。夢なんて見ないほうがいいし、愛なんてない方が気楽でいい。事実、そんなものがなくても生きていける。

「わたしは、お坊ちゃん専門だから」

「綾乃さん、見た目で判断しちゃいけませんよ」

「……YUTOの顔は?」

「美しいです」

「人は見た目じゃ?」

「ありません」

「納得できない!」

「YUTOは中身も完璧なんです! あの顔に、鍛えられた身体に硬派で真っ直ぐな中身! 完璧じゃないですか!」

「みんな鍛え過ぎじゃない?」

 わたしの言葉に、彼女はすかさず鍛えぬいたその体に魅力があるのだと反論する。

「綾乃さんだってジム通ってますよね?」

「わたしはダイエットだもーん」

「綾乃さんが行ってるジム、芸能人が多いらしいですよ! Legacyもいるって」

「芸能人なんて見たことない。いないよ、どこにも」

「……本当に人に興味を持たないんだから」

 呆れたように言い放つ彼女がわざとらしく大きなため息をつく。わたしの方が一つ年上で、一応、この会社だって二か月は先輩だ。それなのに、この彼女の態度。
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