シンデレラ・スキャンダル
だから、いつもどおり文字を打ち始めたけれど、指が止まった。わたしの耳に届いてくるのは、軽やかな足取りの音。そして視界の端に映るのは、少しずつ近づいてくる女の子。
「あ、や、の、さんっ」
日本人離れした真っ白な肌、ヘーゼル色の瞳。オーストリア人の父を持つ彼女は大きな瞳をこちらに向けて、わたしの様子を窺っている。
「最終日までお仕事してるなんて、綾乃さんって感じです!」
「栞ちゃん……帰ったんじゃなかったの?」
「綾乃さんを待ってたんですよ! 一向に出てこないから、待ちくたびれました」
「え、そうなの? ごめんね……で、本当の用事は?」
わたしの言葉に「バレたか」と、頬をまさに薔薇色にさせて可愛い顔で笑っている。
「チケット! 余っちゃったんですけど、ライブ行きません?」
「……ライブ?」
彼女に顔を向ければ、言葉よりも先に膨らませた頬で返事をされた。
「また興味なさそうな顔してぇ」
「なさそうじゃない。な、い、の」
「Legacy好きな人いないかな」
「いるよ、社内にきっと。探してごらん。はい、行ってらっしゃい」
「冷たい。綾乃さん、冷たいですからね、それ」
「栞ちゃん、もう二十二時ですよ」
「四枚も余ってるのに……」
いつもどおり、わたしの言葉はないものとされた。それにしても、なぜそんなに多くのチケットを買ったのか。また無駄遣いをしてというわたしのお小言に、彼女は良い席が欲しかった、みんなが当たると思わなかった、と両の拳を上下させながら訴える。
「綾乃さん、いつになったらLegacy好きになってくれるんですか」
「いつだろうねぇ」
「もう。あ、今日のミュージックチャンネルに出るので見てくださいね」
「わたしがテレビ見ないことぐらい知ってるでしょ」
「テレビくらい買ってくださいよ」
「買ったって見ないもの」
「Legacy好きになってくれたら、一緒にライブに行けるんですよ?」
「わたしの好みは、薄い顔の色白王子です。みんな黒くてサングラスかけてて、色白王子とは程遠いのです」
「確かにRYUは綾乃さんの好みとはかけ離れていますけど、YUTOなら色白ですよ」
「はいはい。愛しのユートサマね」
わたしの気のない返事に彼女は頬を膨らませて不満気だ。
「あ、や、の、さんっ」
日本人離れした真っ白な肌、ヘーゼル色の瞳。オーストリア人の父を持つ彼女は大きな瞳をこちらに向けて、わたしの様子を窺っている。
「最終日までお仕事してるなんて、綾乃さんって感じです!」
「栞ちゃん……帰ったんじゃなかったの?」
「綾乃さんを待ってたんですよ! 一向に出てこないから、待ちくたびれました」
「え、そうなの? ごめんね……で、本当の用事は?」
わたしの言葉に「バレたか」と、頬をまさに薔薇色にさせて可愛い顔で笑っている。
「チケット! 余っちゃったんですけど、ライブ行きません?」
「……ライブ?」
彼女に顔を向ければ、言葉よりも先に膨らませた頬で返事をされた。
「また興味なさそうな顔してぇ」
「なさそうじゃない。な、い、の」
「Legacy好きな人いないかな」
「いるよ、社内にきっと。探してごらん。はい、行ってらっしゃい」
「冷たい。綾乃さん、冷たいですからね、それ」
「栞ちゃん、もう二十二時ですよ」
「四枚も余ってるのに……」
いつもどおり、わたしの言葉はないものとされた。それにしても、なぜそんなに多くのチケットを買ったのか。また無駄遣いをしてというわたしのお小言に、彼女は良い席が欲しかった、みんなが当たると思わなかった、と両の拳を上下させながら訴える。
「綾乃さん、いつになったらLegacy好きになってくれるんですか」
「いつだろうねぇ」
「もう。あ、今日のミュージックチャンネルに出るので見てくださいね」
「わたしがテレビ見ないことぐらい知ってるでしょ」
「テレビくらい買ってくださいよ」
「買ったって見ないもの」
「Legacy好きになってくれたら、一緒にライブに行けるんですよ?」
「わたしの好みは、薄い顔の色白王子です。みんな黒くてサングラスかけてて、色白王子とは程遠いのです」
「確かにRYUは綾乃さんの好みとはかけ離れていますけど、YUTOなら色白ですよ」
「はいはい。愛しのユートサマね」
わたしの気のない返事に彼女は頬を膨らませて不満気だ。