シンデレラ・スキャンダル
指先に走った鋭い痛みに、思考が現実に引き戻された。包丁と手の距離も測れずに、スパっと左手の人差し指に小さな線が入り、赤い滴が湧きでる。

「え、切った? 綾乃ちゃん見せて」

「あ、大丈夫です……」

龍介さんの声が聞こえたのか、リサがわたしの元に走ってくると、スカートを掴んだ。

「アヤノ? 平気? 痛い?」

「ありがとう。大丈夫よ」

「ほら、綾乃ちゃん手貸して」

「いえ、自分で」

「綾乃、手切っちゃったの?」

「あ、はい。あの、いや。えっと……」

忍さんや潤さんまで集まってきて、居たたまれない。自分の不注意。いや、雑念のせいなのに。

「結構スパッといったわね。リュウ、手当てしてあげなさいよ」

「うん。綾乃ちゃんおいで。絆創膏はるから」

「あ、自分で」

「あら、手を切っちゃったのはリュウのせいでもあるんだから」

「ちょっと、忍さん?」

「俺のせい?」

龍介さんは不思議そうに笑う。彼はわたしの手を掴むのではなく、まるで壊れ物でも扱うかのように、そっと指先を取ってソファに導いた。
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