シンデレラ・スキャンダル
「すみません。海の音が心地よくて」
「……そっか」
そう言って、龍介さんはわたしの隣に腰を下ろす。
「……泣いてる気がしたんだけど、俺の気のせい?」
「気のせいです、と言いたいところですけど、誤魔化せないくらい鼻声ですね」
自分の声に笑ってしまう。
「聞いても大丈夫?」
いつもなら、他の人なら、わたしは笑顔で話し出しているところだ。こんな人生だけど、別になんてことはない。結構色々あったんですと笑い話にしてしまえばいい。
でも、こちらに向けられた彼の瞳に視線を合わせれば、その真っ直ぐな眼差しにとらえられて、取り繕うための言葉は喉の奥で詰まって声にならない。息を吸って、大きく吐いて。そして龍介さんの顔を見て、大きく一度頷いた。
「龍介さんが歌ってくれた曲、兄がわたしに教えてくれた曲だったんです。わたしも兄もブラックアンドが大好きで」
「そうなの? 俺もすごい好きだった」
「龍介さんの歌で、兄のことを思い出しました」
「……お兄さん、どうかしたの?」
鼻の奥が苦しくなる。喉が熱くなる。それを落ち着かせるように、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「……失踪、したんです。もう十五年以上前ですね。わたしが高校一年生のときです」
「……そっか」
「お兄ちゃんのことは、もう大丈夫だと思っていたんですけど」
自分の中の想いが龍介さんの前では溢れ出す。
「……わたし、ずっと待ってたんです」
彼の真っ直ぐな瞳から、視線を落とす。
「お兄ちゃんが……いなくなった日も、その次の日も。ずっと、検見川の浜で……」
言葉が、途切れる。
「……『やっぱりここにいた』って。『ほら帰ろう』って。いつも迎えに来てくれるから。今回もまた迎えに来てくれるんじゃないかって……でも、来なかった……っ」
「……うん」
「何年経っても……わたしだけ、ずっと、あの日から……」
もう、声にならなかった。
「いつか……いつか帰ってきてくれるって思っていたんです。ずっと」
母が亡くなり、兄がいなくなり、父もこの世を去っていった。そのとき初めて孤独という言葉の意味を知った。独りで生きて、歩いていく。一人は嫌いじゃないけれど、一人でいることと独りになってしまうことは違った。
「……そっか」
そう言って、龍介さんはわたしの隣に腰を下ろす。
「……泣いてる気がしたんだけど、俺の気のせい?」
「気のせいです、と言いたいところですけど、誤魔化せないくらい鼻声ですね」
自分の声に笑ってしまう。
「聞いても大丈夫?」
いつもなら、他の人なら、わたしは笑顔で話し出しているところだ。こんな人生だけど、別になんてことはない。結構色々あったんですと笑い話にしてしまえばいい。
でも、こちらに向けられた彼の瞳に視線を合わせれば、その真っ直ぐな眼差しにとらえられて、取り繕うための言葉は喉の奥で詰まって声にならない。息を吸って、大きく吐いて。そして龍介さんの顔を見て、大きく一度頷いた。
「龍介さんが歌ってくれた曲、兄がわたしに教えてくれた曲だったんです。わたしも兄もブラックアンドが大好きで」
「そうなの? 俺もすごい好きだった」
「龍介さんの歌で、兄のことを思い出しました」
「……お兄さん、どうかしたの?」
鼻の奥が苦しくなる。喉が熱くなる。それを落ち着かせるように、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「……失踪、したんです。もう十五年以上前ですね。わたしが高校一年生のときです」
「……そっか」
「お兄ちゃんのことは、もう大丈夫だと思っていたんですけど」
自分の中の想いが龍介さんの前では溢れ出す。
「……わたし、ずっと待ってたんです」
彼の真っ直ぐな瞳から、視線を落とす。
「お兄ちゃんが……いなくなった日も、その次の日も。ずっと、検見川の浜で……」
言葉が、途切れる。
「……『やっぱりここにいた』って。『ほら帰ろう』って。いつも迎えに来てくれるから。今回もまた迎えに来てくれるんじゃないかって……でも、来なかった……っ」
「……うん」
「何年経っても……わたしだけ、ずっと、あの日から……」
もう、声にならなかった。
「いつか……いつか帰ってきてくれるって思っていたんです。ずっと」
母が亡くなり、兄がいなくなり、父もこの世を去っていった。そのとき初めて孤独という言葉の意味を知った。独りで生きて、歩いていく。一人は嫌いじゃないけれど、一人でいることと独りになってしまうことは違った。