シンデレラ・スキャンダル
父と母のことを思い出す度に心が叫び出す声がはっきりと聞こえるのに、わたしはその度に蓋をした。間違っていることを終わらせられない弱さとか。終わらせられないどころか、自ら落ちようとする弱さとか。それを仕方ないと諦める弱さも。

ダメだと叫ぶ心を黙らせるために蓋をして閉じ込めていたけれど、きっと今なら聴いてあげられる。

「すみませんでした。本当に」

「大丈夫?」

「はい。泣いたらスッキリしました。ふふ」

「よかった」

温かさを感じながら、胸に手をあてて暗闇に包まれる海を見つめる。

「龍介さん、ありがとうございます」

「俺はなにも」

「龍介さんのおかげです。わたし、ちゃんと頑張ります」

「……やっぱり真っ直ぐだよね」

「本当に全然そんなことないんですけど。龍介さんにそう言ってもらえるなら、真っ直ぐでいたいと思います」

「……」

「龍介さんの言葉は魔法みたいですね」

本当に魔法みたい。

龍介さんの前だと本当の自分がどこにいるのかがわかる。本当は自分が何を思っているのかがわかる。辛さも悲しさも、そして弱さも認めてあげられる。辛かったね、悲しかったねとあの頃の自分を抱き締めてあげられる。

虚栄とか嘘とか絶望とか、色んなものがぐちゃぐちゃに混ざって固められた重い鎧が砕け散って、やっと前を向いて目の前の光に向かって一歩を踏み出せる。お父さんが教えてくれたように前を向きたい。お母さんのように真っ直ぐ歩きたい。

龍介さんの方に顔を向ければ、少しだけ驚いたように龍介さんがわたしを見つめていた。

そして——

「本当に……綺麗だね」

そう呟いた。

彼のほうがよっぽど綺麗だった。眩しそうに目を細める彼の顔を月が照らしている。時が止まってしまいそうな程に、眼差しが優しい。このまま、この瞳に見つめられていたい。綺麗だと言ってもらえる自分でいたい。

だって、眩しいほどに綺麗だから。海も、月も、星たちも。そして、何よりあなたが。
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