シンデレラ・スキャンダル
14話 陽だまりの音
◇◇◇
昼下がり。リビングに入ると、陽だまりの中で微かに微笑みながらピアノを弾く彼の姿があった。軽やかに流れる彼の指がビートルズのレットイットビーを奏でている。
洗いざらしのまま、少しだけ癖がついた金色の髪が陽に透けて輝いて見える。彼がわたしに気付いて目を細めた。
ソファに深く腰を下ろし、開いたままの本のページに連なる文字を目で追いながら、静かに流れてくるピアノの音色に耳を傾ける。窓からは心地よい海風が吹き込み、わたしの肩にかかる長い髪を優しく靡かせていく。視線を本の活字から窓の外へと向ければ、遠くの波打ち際から届く微かな潮騒の音が、ピアノの調べと混ざり合って耳に届く。
やがて、旋律がクライマックスを迎え、最後の音が鍵盤の上からふわりと、そして優しく響いて、静かに曲の終わりを告げた。指を鍵盤から離した彼は、ゆっくりとこちらを振り返る。
「何の曲かわかる?」
彼の声は、弾き終えたばかりのピアノの余韻のように、穏やかで低く響いた。わたしは静かに微笑んで、本の栞を挟みながら答える。
「ビートルズのレットイットビー」
彼の顔に、予想通りの、しかしどこか嬉しそうな表情が浮かぶ。
「おっ、正解」
「ふふ」
わたしは、小さく笑った。海からの風は変わらず、わたしたちのいる部屋を優しく通り抜けていく。
「綾乃ちゃんって結構、音楽聞いているよね? テレビ見ない割に」
「そうですかね」
「ボーイズⅡメンが好きって結構意外だった」
「詳しいわけじゃないですよ。ただ初めて聞いたとき、あまりにも綺麗だったから」
「洋楽好き?」
「確かに洋楽が好きかもしれないです。龍介さんは洋楽好きですか?」
「そうだね……なんでも好きかな。R&Bとかも、邦楽も童謡も」
龍介さんは照れくさそうに笑いながら、目の前の鍵盤を一つ押し込んだ。彼の肩越しには、キラキラと輝く太陽と、穏やかなビーチが見える。
「龍介さんみたいに、ピアノもギターも弾けて、その上、歌がうまかったら、何を歌っても楽しいだろうな」
「そんなことないよ。本当は……思うように歌えなくて。だから今回ハワイに来たんだ」
ピアノに触れている手をそのままに、視線を落とした彼が呟くようにそう口にする。
昼下がり。リビングに入ると、陽だまりの中で微かに微笑みながらピアノを弾く彼の姿があった。軽やかに流れる彼の指がビートルズのレットイットビーを奏でている。
洗いざらしのまま、少しだけ癖がついた金色の髪が陽に透けて輝いて見える。彼がわたしに気付いて目を細めた。
ソファに深く腰を下ろし、開いたままの本のページに連なる文字を目で追いながら、静かに流れてくるピアノの音色に耳を傾ける。窓からは心地よい海風が吹き込み、わたしの肩にかかる長い髪を優しく靡かせていく。視線を本の活字から窓の外へと向ければ、遠くの波打ち際から届く微かな潮騒の音が、ピアノの調べと混ざり合って耳に届く。
やがて、旋律がクライマックスを迎え、最後の音が鍵盤の上からふわりと、そして優しく響いて、静かに曲の終わりを告げた。指を鍵盤から離した彼は、ゆっくりとこちらを振り返る。
「何の曲かわかる?」
彼の声は、弾き終えたばかりのピアノの余韻のように、穏やかで低く響いた。わたしは静かに微笑んで、本の栞を挟みながら答える。
「ビートルズのレットイットビー」
彼の顔に、予想通りの、しかしどこか嬉しそうな表情が浮かぶ。
「おっ、正解」
「ふふ」
わたしは、小さく笑った。海からの風は変わらず、わたしたちのいる部屋を優しく通り抜けていく。
「綾乃ちゃんって結構、音楽聞いているよね? テレビ見ない割に」
「そうですかね」
「ボーイズⅡメンが好きって結構意外だった」
「詳しいわけじゃないですよ。ただ初めて聞いたとき、あまりにも綺麗だったから」
「洋楽好き?」
「確かに洋楽が好きかもしれないです。龍介さんは洋楽好きですか?」
「そうだね……なんでも好きかな。R&Bとかも、邦楽も童謡も」
龍介さんは照れくさそうに笑いながら、目の前の鍵盤を一つ押し込んだ。彼の肩越しには、キラキラと輝く太陽と、穏やかなビーチが見える。
「龍介さんみたいに、ピアノもギターも弾けて、その上、歌がうまかったら、何を歌っても楽しいだろうな」
「そんなことないよ。本当は……思うように歌えなくて。だから今回ハワイに来たんだ」
ピアノに触れている手をそのままに、視線を落とした彼が呟くようにそう口にする。