シンデレラ・スキャンダル

15話 刹那の恋は瞬いて

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今日も同じように、起きてすぐに公園に向かう。彼はトレーニングを欠かさない。そんな彼と同じようにトレーニングウェアを身にまとい、外に出れば、少しは健康体に近づいていけそうな気がする。

でも、やはり懸垂はできないようで、わたしの体は一ミリメートルも上がらない。わたしが落ちないようにと手を添えて支えてくれている彼が、細かに体を揺らしている。

「ま、た……笑ってぇ」

「あはは! やっぱりそれぶら下がってるだけだって」

「頑張ってるんです!」

「クク……ヤバ……あは……ちょっ苦しっ……」

「……もう降りる」

「……はい」

笑いながらも軽々と受け止めてくれる力強い腕はわたしの体重ぐらいでは、びくともしないらしい。

地面にゆっくりと降ろしてもらうと、不満げに彼を見上げる。すると間近で目があった彼に帽子のつばを押し込まれて、前が見えなくなった。

「あ、なにするんですか」

「その目やめて」

右手で少し顔を隠しながらわたしから視線を外して笑う彼は、どこか可愛くて。でも、可愛いと伝えても龍介さんは「なんかヤダ」とすねてしまうから、その感想はわたしの心の中にとどめておこうと思った。

わたしは龍介さんの笑った顔が好き。子供みたいに無邪気な笑顔を見ていると、わたしも龍介さんのように優しくなれる気がする。

彼の傍にいると、全てに優しくしたくなるから不思議。優しい人間になりたいと思う。人に優しくすること、周りの人を考えること、人の気持ちに寄り添うこと、当たり前のように彼はそうするから。

「そろそろ戻ろうか」

「はい」

木々の緑、砂浜の白、海と空の青。全てに強い日差しが降り注ぐ。隣には、スピードを合わせて走ってくれる彼の姿。走る先を照らす大きな太陽を見上げて、目を細めた。
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