シンデレラ・スキャンダル
◇
昼過ぎに買い物にでかけて、夕陽が落ちかけたころに戻ると、家の中から微かにピアノの音が聞こえてきた。
初めて聴くその曲は柔らかく優しい音色で、龍介さんと同じようにキラキラと眩い。チャイムを鳴らすと、その音が止まり、家の中から彼が迎えに出てきてくれる。
「お帰り」
「すみません、邪魔しちゃいましたね」
「え? ああ、ピアノ聞こえてた?」
「はい。初めて聴いたんですけど、素敵な曲ですね。なんていう曲ですか?」
「いや……あれはね」
リビングに行くと、彼がピアノの椅子に座り、軽く鍵盤に触れて音を出す。
「今さ、曲を作ってたんだよね」
「曲を?」
「昨日話したけど、ずっと曲が作れなくて。でも、綾乃ちゃんと昨日ピアノを弾いて……そしたら、メロディーが浮かんできて」
彼がはにかみながら教えてくれる。
「歌詞はまだつけてないんだけど」
「作詞もされるんですか?」
「うん。一曲で両方はあまりしないけど……綾乃ちゃん、ちょっと聴いてくれる?」
「え、き、聴いていいんですか?」
「ちょっと行き詰まってさ。曲は結構できたんだけど、あとは歌詞がね」
「……嬉しい」
龍介さんはわたしをソファに座らせると、自分はピアノに向かい椅子に浅く腰掛ける。そして、鍵盤を軽く触りながら微かに歌い、「よし」と一言呟いてからこちらを見た。
「では、聴いてください」
「ふふ。はい」
観客はわたしだけ。お辞儀をする龍介さんに同じくお辞儀を返して、姿勢を正してみる。龍介さんが奏で始めたその音に耳を澄ます。
ピアノの一音一音が、心をノックするみたいに響く。走り出してしまいそうなのに、走り出せないその曲は、まるでわたしの気持ちみたいに揺れ動く。
鍵盤の上で軽やかに動く指。楽譜を見る龍介さんの横顔。美しくて眩しいのに、胸が少し痛いくらいにきゅうきゅう鳴るのはどうしてだろう。
あまりにもキラキラしている曲だからだろうか。それとも、本当は切ない曲だからだろうか。まだ歌詞がついていないその曲は、わたしに疑問を残していく
(——龍介さん、これはどんな曲ですか?)
最後の音が響いて、そして龍介さんが短く息を吐く。
昼過ぎに買い物にでかけて、夕陽が落ちかけたころに戻ると、家の中から微かにピアノの音が聞こえてきた。
初めて聴くその曲は柔らかく優しい音色で、龍介さんと同じようにキラキラと眩い。チャイムを鳴らすと、その音が止まり、家の中から彼が迎えに出てきてくれる。
「お帰り」
「すみません、邪魔しちゃいましたね」
「え? ああ、ピアノ聞こえてた?」
「はい。初めて聴いたんですけど、素敵な曲ですね。なんていう曲ですか?」
「いや……あれはね」
リビングに行くと、彼がピアノの椅子に座り、軽く鍵盤に触れて音を出す。
「今さ、曲を作ってたんだよね」
「曲を?」
「昨日話したけど、ずっと曲が作れなくて。でも、綾乃ちゃんと昨日ピアノを弾いて……そしたら、メロディーが浮かんできて」
彼がはにかみながら教えてくれる。
「歌詞はまだつけてないんだけど」
「作詞もされるんですか?」
「うん。一曲で両方はあまりしないけど……綾乃ちゃん、ちょっと聴いてくれる?」
「え、き、聴いていいんですか?」
「ちょっと行き詰まってさ。曲は結構できたんだけど、あとは歌詞がね」
「……嬉しい」
龍介さんはわたしをソファに座らせると、自分はピアノに向かい椅子に浅く腰掛ける。そして、鍵盤を軽く触りながら微かに歌い、「よし」と一言呟いてからこちらを見た。
「では、聴いてください」
「ふふ。はい」
観客はわたしだけ。お辞儀をする龍介さんに同じくお辞儀を返して、姿勢を正してみる。龍介さんが奏で始めたその音に耳を澄ます。
ピアノの一音一音が、心をノックするみたいに響く。走り出してしまいそうなのに、走り出せないその曲は、まるでわたしの気持ちみたいに揺れ動く。
鍵盤の上で軽やかに動く指。楽譜を見る龍介さんの横顔。美しくて眩しいのに、胸が少し痛いくらいにきゅうきゅう鳴るのはどうしてだろう。
あまりにもキラキラしている曲だからだろうか。それとも、本当は切ない曲だからだろうか。まだ歌詞がついていないその曲は、わたしに疑問を残していく
(——龍介さん、これはどんな曲ですか?)
最後の音が響いて、そして龍介さんが短く息を吐く。