恋愛アルゴリズムはバグだらけ!?~完璧主義の俺が恋したらエラー連発な件~

第18話 アラート発生:静香の変化に気づく

ウェブ版恋愛診断システム開発から一週間後。



 俺──田中優太は、プロジェクトの進捗に満足していた。



「データベース設計完了、UI設計も順調……」



 画面には開発スケジュールが表示されている。全て予定通りだった。



「静香のウェブデザインも素晴らしいし、このペースなら来月には公開できる」



 しかし、ふと気づいた。



「あれ? 今日、静香を見てないな」







 昼休み、俺は図書館に向かった。いつもなら静香がカウンターにいるはずだが、今日は別の人がいた。



「あの、山田さんは?」



「今日はお休みです」



 休み? 事前に聞いていなかった。



 俺はスマートフォンを確認したが、静香からのメッセージはない。



「体調でも悪いのかな……」







 俺は静香にメッセージを送った。



『お疲れさまです。体調は大丈夫ですか?』



 しばらくして返信が来た。



『大丈夫です。少し用事があって休みました。』



 短い返信だった。いつもの静香なら、もう少し詳しく説明してくれるのに。



『プロジェクトの進捗、報告したいことがあります。今度会えますか?』



『また今度お願いします。』



 何かおかしい。





「おい優太、なんか元気ないな」



 大輔が俺の様子に気づいた。



「静香の様子が変なんだ」



「変って?」



「連絡が素っ気ないし、会うのも避けてるような……」



 大輔は少し考え込んだ。



「もしかして、プロジェクトがプレッシャーになってるとか?」



「プレッシャー?」



「ほら、恋人同士で仕事するって結構大変じゃね?」







 その日の午後、歩美に相談してみた。



「心理学的に見て、どう思う?」



「うーん……いくつか可能性がありますね」



 歩美は真剣に考えていた。



「一つは、プロジェクトのプレッシャー。もう一つは……」



「もう一つは?」



「恋人関係と仕事の関係の境界線に戸惑っているかもしれません」



「境界線?」



「はい。公私混同への不安とか、関係性の変化への戸惑いとか」





 夕方、高橋先輩に相談した。



「田中くん、恋人同士でプロジェクトをやるのは、想像以上に複雑ですよ」



「複雑?」



「僕も昔、恋人と一緒に研究したことがあります」



 初めて聞く話だった。



「どうなったんですか?」



「うまくいかなくて、結局別れました」



 衝撃的な言葉だった。



「仕事では意見の違いが生まれます。それが恋人関係にも影響する」







 その夜、俺は不安で眠れなかった。



「まさか、プロジェクトのせいで静香との関係が……」



 考えれば考えるほど、心配になった。



 静香の提案で始まったプロジェクトなのに、それが原因で関係が悪化するなんて。



「俺はまた、同じ失敗を繰り返しているのか?」







 翌日、俺は静香のアパートを訪れた。



「田中さん……」



 ドアを開けた静香は、少し疲れているように見えた。



「心配になって。体調は大丈夫?」



「はい……入ってください」



 部屋に入ると、いつもの温かい雰囲気がなかった。







「静香、何か俺に言いたいことがあるなら聞くよ」



 俺は率直に聞いた。



「プロジェクトのことで、プレッシャーを感じてる?」



「プレッシャー……」



 静香は少し考えてから口を開いた。



「実は……自分が提案したプロジェクトなのに、ついていけなくて」



「ついていけない?」



「田中さんたちの技術レベルが高すぎて、私なんて……」



 静香の本音だった。







「みなさん、すごく専門的な話をしてるじゃないですか」



 静香は俯いていた。



「私だけ文学部で、技術的なことは全然分からなくて」



「でも君のウェブデザインは……」



「それも、ほんの基礎レベルです」



 静香は自分を過小評価していた。



「田中さんの足を引っ張るんじゃないかと思って……」







「静香、それは違う」



 俺は彼女の手を取った。



「君がいなければ、このプロジェクトは始まらなかった」



「でも……」



「技術だけじゃダメなんだ。君の視点があるから、ユーザーにとって使いやすいものができる」



 俺は真剣に説明した。



「君は俺たちにない感性を持ってる。それが一番大切なんだ」







「それに、プロジェクトはチームでやるものだ」



 俺は続けた。



「俺も心理学は分からない。大輔もプログラミングはできない。歩美もシステム設計は知らない」



「そうですが……」



「でも、みんなで補い合うからうまくいく。君もその重要な一員なんだ」



 静香の表情が少し明るくなった。





「もう一つ、気になることがあるんじゃない?」



「え?」



「恋人としての関係と、仕事のパートナーとしての関係」



 静香は驚いたような表情を見せた。



「どちらを優先すればいいか、迷ってるでしょう?」



「……はい」



「俺も同じだよ」





「だから、ルールを決めよう」



 俺は提案した。



「仕事の時は仕事のパートナー。プライベートの時は恋人同士」



「ルール?」



「仕事で意見が違っても、それは恋人関係とは別。プライベートで甘えても、それは仕事に持ち込まない」



 静香は考え込んだ。



「それって、うまくいくでしょうか?」



「分からない。でも、やってみる価値はある」





「静香」



「はい?」



「俺には君が必要だ。恋人としても、パートナーとしても」



「田中さん……」



「一緒に、このプロジェクトを成功させよう」



 静香は涙ぐみながら頷いた。



「はい。頑張ります」



「俺たちなら、きっとうまくいく」







 翌日、俺たちはチーム全体でミーティングを開いた。



「まず、静香が感じていた不安について話したい」



 俺は正直に説明した。



「技術的なことが分からなくて、不安を感じてたんだ」



「そうだったんですか」



 歩美が理解を示した。



「私も最初、プログラミングのことが全然分からなくて不安でした」







「静香さん、俺たちにとって君の視点は本当に重要なんだ」



 大輔が言った。



「俺のデザインも、君の意見で何度も改善された」



「私も心理学の説明を、山田さんが一般向けに分かりやすくしてくれました」



 歩美も感謝を表した。



「みんなで作るから意味があるんです」



 高橋先輩も静香を励ました。







 その日から、プロジェクトは新しいフェーズに入った。



 静香の不安は解消され、チーム全体の結束も深まった。



「恋愛診断システム、来月公開予定」



 俺は満足してスケジュールを確認した。



「今度こそ、うまくいきそうだ」







 その夜、俺と静香は久しぶりにゆっくりと話した。



「ありがとう、田中さん」



「何が?」



「私の気持ちを理解してくれて」



 静香は微笑んだ。



「これからは、もっと素直に相談します」



「俺もだ。一人で抱え込まずに、何でも話そう」



 俺たちの関係は、より深いものになった。



 恋人としても、パートナーとしても。





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