気まぐれ王子と召使い
「……なにが言いたいんだよ、お前…」
「ただのコミュニケーションだろ。ま、でもお前の反応を見るにガセネタじゃ無かったって事かな」
「それを知ってどうすんだよ?"そのネタ"をコイツに言うつもりか?」
「俺は人の恨みを買うのは趣味じゃないんでね。そう易々と人に流したりしないさ」
真堂が世那の手をポンポンと軽く叩くと、乱雑に真堂から手を振り払った。
「さてと、涼井は桜木先輩とはもうなんでも無いって事で良いんだよな?俺の知り合いにそれを気にしてる奴が居るんだよ」
「……なんでもねーよ。あっちがどう思ってんのかは知らねーけど」
「OK!ま、頑張れよ。応援してるから、色々と」
世那は凍りつきそうなぐらい冷たい瞳で真堂を睨みつけているが、真堂は意にも介してない顔でニッコリと笑った。
「では、俺はおいとまするかな。甲斐も巻き込んで悪かったな」
「……へ?あ、あぁ……」
「真堂、さっきの話って……」
さっきの話を改めて聞こうとすると、真堂は口元に人差し指を持って行き目を細めて笑った。
「内緒。じゃあな、山吹」
「えっ?あ、ちょっと……!」
「今度は夜中に旧校舎に行こう。きっと楽しいぜ」
そう言い残し、真堂は手をヒラヒラと振って教室を出て行ってしまった。
この空気感じゃなければ夜中の旧校舎自体は魅力的だったんだけど、状況が状況すぎる。
空気が張り詰め、教室の温度が一瞬で下がったかのように冷たい沈黙が広がった。
「せ、世那……大丈夫か……?」
甲斐君が恐る恐る世那の機嫌を伺うように聞くと、世那は深海の底のように冷えきった目で甲斐君を横目で見返した。
「……あいつ、真堂って言ったか」
「え?お、おう……そうだけど…」
「俺に関わった事を後悔させてやる」
ぶわぁっと全身から滝のように冷や汗が流れ出る。
世那の瞳は桜木先輩の話をした時の比じゃないぐらい、冷徹で恐ろしい程に冷えきった目をしていた。