仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene10「番組収録」

スタジオのライトが一斉に点灯した。
まぶしい照明が舞台を包み、スタッフの掛け声と拍手が響き渡る。

「さあ、本日のスペシャルゲストは――このお二人です!」

司会者の声に合わせ、カメラが滑らかにスライドしてくる。
観覧席のざわめき、華やかなセット、笑顔のスタッフ。
完璧に“夢”としてデザインされた空間。

その中央。
ソファには、宅麻大地と矢野璃子。
テーブルにはカラフルなマグカップが並んでいた。

蓮は笑っていた。
だが胸の内では、波がせめぎ合っていた。

――笑え。いつものように。宅麻大地として完璧に。動揺なんか見せない。俺は宅麻大地だ。

そう言い聞かせながら呼吸を整える。
なのに、璃子の視線だけが、頭の片隅にこびりついて離れない。

――優香が見てる。信じてる。だから、ちゃんとやらなきゃ。平気でいろ。

「宅麻さん、最近ますます人気が出てますよね? 忙しいでしょう?」

「はい、おかげさまで。どんなに忙しくても、応援があるから頑張れます」

柔らかな笑顔に、観客席から「かわいいー!」と声が飛ぶ。
その瞬間、璃子がわずかに微笑む。
その一瞬が蓮の胸を静かにざわつかせた。

――一方の璃子も、平静ではいられなかった。

仕草も、瞬きの癖も、息の整え方も。
目の奥に、確かに“蓮”の光が残っている。

――どうして。私を忘れたなんて言えるの。思い出してよ。私のこと。

「璃子さんは、宅麻さんと初共演ですよね? 印象は?」

「ええ。とても優しくて、まっすぐな方だと思います」

言葉は微笑みに包まれているのに、瞳の奥には揺れが滲む。
カメラにも観客にも映らないその揺れだけが、蓮には痛いほど伝わっていた。

――その番組の様子を、別室で優香は見つめていた。

スタッフの声が飛び交うモニタールーム。
画面の中の“宅麻大地”は笑っている。
けれど、ほんの微かな影が表情に混ざる。

――大地くん、何かあった? あの控室で……何を感じたの?

胸元をぎゅっと握る手が、小さく震えていた。

「でも、大地くん……頑張ってる。私は信じてるよ」

スタジオには拍手と笑い声。
誰もが楽しげで、絵に描いた“華やかな番組”が進行していく。

だが、その中心にいる三人の胸には、
それぞれ違う痛みとざわめきが静かに渦巻いていた。

その真実とは裏腹に――
カメラは今日も、完璧な“夢”だけを映し続ける。
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