仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene11 番組収録・緊張の高まり

「いやあ、お二人、初共演とは思えないくらい息ぴったりですよね?」

司会者の軽快な声がスタジオに響いた。 観覧席からも「確かに~!」と笑い声が弾む。

カメラがゆっくりと二人を捉える。
ライトの反射で、蓮の笑顔が鮮やかに照らされる。

「ええ、とてもやりやすいです」

蓮は柔らかく答えながらも、視界の端で横に座る璃子を意識していた。
胸の奥に、静かな緊張が波のように押し寄せる。

「璃子さん、どうです? 宅麻さん、さすが“今いちばん旬のアイドル”って感じですか?」

司会者に問われ、璃子はわずかに首をかしげ、穏やかに微笑んだ。

「……そうですね。人を惹きつける力のある方です。何かを隠していても、目が全部を語ってしまうような……そんな印象があります」

会場の空気がすっと変わり、ざわめきが走る。
司会者が興味深そうに身を乗り出す。

「おっと? それは……意味深ですね?」

璃子のまなざしが、ほんの一瞬だけ細く揺れた。

「不思議なんです。初めて会ったのに……どこか“懐かしい”感覚がして」

観覧席がまたざわりと沸き起こる。
茶化すような笑い声。だが――一拍、静寂。

蓮の喉がひゅっと鳴った。
笑顔を崩さずにいるが、マイクを握る指先にじわりと力がこもる。

(やめろ……それ以上は……)

「そ、そうですね……はは……。初めてなのに、とてもやりやすいです」

上ずった声。
璃子はその微細な揺らぎを、確実に見逃さなかった。

(……やっぱり。忘れたふりなんて、できない)


モニタールームでは、
優香はただ、画面を凝視していた。
スタッフの声が飛び交う中で、音が遠く感じる。

(“懐かしい感じ”? どういう意味……
 大地くん……どうして、そんな表情……)

蓮は笑っている。
でもその笑顔の奥に潜んだ影が、胸にひっかかる。

(私の知らない何かが……そこにある)

無意識に胸元をぎゅっと握りしめる。
息が少し乱れる。

(それでも私は、信じるよ。大地くんを)

――

まぶしいライト。
司会者の華やかな声。
観覧席の明るい笑い。

その中心にいる三人だけが、誰にも見えない心の緊張を抱えている。
見えない糸が、静かに、深く、絡み始めていた。

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