仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene14 優香の問いかけとフラッシュバック

収録後の夜、優香の部屋。
湯気を立てるお茶の香りが、静かな空気にゆっくり広がっていた。

優香はカップを手のひらで包みながら、正面に座る蓮を見つめる。

「……蓮くん。さっきのこと、話してくれる?」

蓮の肩がぴくりと揺れた。
浮かべた笑顔は“作った”ものだと、優香にはすぐ分かった。

「……ただ、ちょっと昔のことを言われただけだよ」

「でも……顔。こわばってた」
優香は小さな声でつぶやく。

「ドアを開けた時……知らない人みたいだった」

蓮は視線を伏せ、指先をゆっくり握り込んだ。

(……蓮、か)

――その名前は、控室でも呼ばれた。

『やっぱり、私の蓮だわ』
『“俺、もっと頑張るから見ててくれ”…そう言ったじゃない』

汗のにじむレッスン室。
肩に顔を埋めた夜。
指に残る、あの時の震え。

(違う……違う……あれは俺じゃない……!)

「……蓮くん?」

優香の声に、蓮はびくりと顔を上げた。
そして無意識に、声を荒げてしまう。

「……何でもないって言ってるだろ……!」

カップが小さく跳ね、湯気がふたりの間で揺れた。

蓮はすぐに額に手を当て、息を吐く。

「……ごめん。本当に、なんでもないから」

その声音は、どこか懇願に似ていた。

優香は迷い、そしてそっと蓮の手に自分の手を重ねる。

「……私の知らない蓮くんがいるのかなって思ったの」

それでも、と目を伏せる。

「どんな蓮くんでも、私は味方だから」

蓮は、はっとして優香を見る。

(……優香だけは、“蓮”を責めずに呼んでくれる)

胸の奥ではまだ、璃子の声が渦巻いている。
けれど今は――指先から伝わるこのぬくもりだけを信じていたかった。


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