仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene13 交差する視線

「……あの目。やっぱり、私の知ってる“蓮”そのもの」

その囁きは、刃のように蓮の胸を刺した。

音にならない衝撃が体の奥まで走り、呼吸がうまくできなくなる。
気づけば、蓮は一歩、璃子に踏み出していた。

「……違う、俺は――」

「嘘つき」

璃子の瞳が細まる。
そこには、かつて恋人だったときの温度と、失ったものへの痛みが入り混じっていた。

「その目、私がいちばん知ってる。
あの夜、泣きながら言ったよね――『もう一度だけ信じて』って」

「やめろ……!」

蓮の声が震えた。
拳を握りしめた指先が白くなる。

(やめろ……優香がいるんだ。裏切りたくない。それなのに――なんで、こんなに……!)

璃子がさらに一歩近づく。
ヒールの音が、異様なほど大きく廊下に響く。

「あなたがいなくなってから、どれだけ毎晩……思い続けたと思ってるの?」

「――大地くん?」

空気が一瞬で変わった。

控室のドアがわずかに開き、優香が立っていた。
驚いた瞳で、二人を順に見つめる。

「……声が聞こえたから。何かあったの?」

蓮は答えようとしたが、喉が音を作れなかった。

璃子は一瞬の静寂のあと、すっと女優の仮面を戻した。

「昔の話をしてただけよ。ね? 宅麻さん」

「……あ、ああ……」

優香の視線が、ほんの一瞬だけ揺れた。
その微かな揺れが、蓮の胸を強く軋ませる。

(優香……お前だけには、こんな顔を見せたくなかったのに……)

優香は蓮にそっと近づいた。

「……大地くん。あとで少し話せる?」

「……ああ」

静かにうなずいた蓮を確認すると、優香は控室のドアを閉める。
再び廊下に二人だけが残る。

璃子は肩をすくめ、小さな笑みを浮かべる。

「かわいい人がいるのね。それでも……わかるわ。あなたは、私を忘れてなんかいない」

そう言い残し、踵を返す。
ヒールの音が遠ざかり、静寂だけが残った。

蓮は、冷えた空気の中で立ち尽くし、動けなかった。

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