仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」
Scene18 記憶と恐怖のはざまで
廊下の奥、誰も通らない非常口の前で、蓮は壁に背を預けていた。
肩で荒く息をしながら、頭を抱える。
背中に伝わる冷たいコンクリートの感触だけが、かろうじて現実をつなぎ止めていた。
「……くそ……っ」
低くこぼれた声が、がらんとした空間に落ちて消える。
喉がひゅうっと鳴り、胸が詰まる。呼吸がうまくできない。
(なんなんだよ……俺……)
璃子の言葉が、肌に焼きついたように離れない。
あの瞳。あの声。あの、熱。
――“私たち、恋人だったのよ”
――“泣きそうになって、私の胸に顔を埋めて……”
――“私を見て……あの時の私を……”
頭を抱えたまま、蓮はゆっくりと膝を折り、床に座り込んだ。
タイルの冷たさが掌から伝わり、少しだけ心が落ち着いていく。
(……思い出したくないのに……)
記憶が勝手に流れ込んでくる。
夜の公園。街灯の下のベンチ。
誰にも見せられない弱さをさらして、彼女の胸に顔をうずめていた自分。
(……情けねぇ……)
――“俺、甘えていい……?”
あのときの自分は、あまりにも弱く、あまりにも素直だった。
だからこそ、今、怖い。
(……忘れてほしい、なんて思えない。
でも――覚えてくれていたことが、何より怖かった……)
璃子は“黒瀬蓮”を覚えていた。
その声が、自分の奥に封じていた何かを、無理やり引きずり出した。
(俺は……“宅麻大地”として生きたかったんじゃないのか……?
でも……今の俺は……本当に“俺”なのか……?)
優香のことを思い出す。
あのやさしい声。そっと手を握ってくれた温もり。
一緒に過ごした夜――すべてを受け入れてくれた、あの時間。
(優香の前では、“俺”でいられた気がした。
でも……それって、どっちの“俺”なんだ……?)
答えは出ない。
胸の奥で、誰かが小さく泣いていた。
(……誰か、教えてくれよ……俺は……いったい……)
非常灯の緑の光が、ぼんやりと天井を照らす。
その下で、蓮は静かに膝を抱えた。
光と影のあいだで、心の奥に潜む“もうひとりの自分”が、静かに目を覚まそうとしていた。
肩で荒く息をしながら、頭を抱える。
背中に伝わる冷たいコンクリートの感触だけが、かろうじて現実をつなぎ止めていた。
「……くそ……っ」
低くこぼれた声が、がらんとした空間に落ちて消える。
喉がひゅうっと鳴り、胸が詰まる。呼吸がうまくできない。
(なんなんだよ……俺……)
璃子の言葉が、肌に焼きついたように離れない。
あの瞳。あの声。あの、熱。
――“私たち、恋人だったのよ”
――“泣きそうになって、私の胸に顔を埋めて……”
――“私を見て……あの時の私を……”
頭を抱えたまま、蓮はゆっくりと膝を折り、床に座り込んだ。
タイルの冷たさが掌から伝わり、少しだけ心が落ち着いていく。
(……思い出したくないのに……)
記憶が勝手に流れ込んでくる。
夜の公園。街灯の下のベンチ。
誰にも見せられない弱さをさらして、彼女の胸に顔をうずめていた自分。
(……情けねぇ……)
――“俺、甘えていい……?”
あのときの自分は、あまりにも弱く、あまりにも素直だった。
だからこそ、今、怖い。
(……忘れてほしい、なんて思えない。
でも――覚えてくれていたことが、何より怖かった……)
璃子は“黒瀬蓮”を覚えていた。
その声が、自分の奥に封じていた何かを、無理やり引きずり出した。
(俺は……“宅麻大地”として生きたかったんじゃないのか……?
でも……今の俺は……本当に“俺”なのか……?)
優香のことを思い出す。
あのやさしい声。そっと手を握ってくれた温もり。
一緒に過ごした夜――すべてを受け入れてくれた、あの時間。
(優香の前では、“俺”でいられた気がした。
でも……それって、どっちの“俺”なんだ……?)
答えは出ない。
胸の奥で、誰かが小さく泣いていた。
(……誰か、教えてくれよ……俺は……いったい……)
非常灯の緑の光が、ぼんやりと天井を照らす。
その下で、蓮は静かに膝を抱えた。
光と影のあいだで、心の奥に潜む“もうひとりの自分”が、静かに目を覚まそうとしていた。