仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」
Scene19 優香の探り
収録を終えたスタジオ裏。
照明の余熱が残る空気の中、スタッフと出演者たちの声がにぎやかに飛び交っている。
優香はケーブルを巻くふりをしながら、その視界の端でひとりの女性の動きを追っていた。
(……大地くん、控室で顔がこわばってた。
あの人――矢野璃子さん。……いったい、何を言ったの?)
璃子はメイク直しを終え、ゆっくり廊下へ出ていく。
その後ろ姿に、優香は小さく息を吸った。
「……あの、矢野さん」
廊下の角を曲がったところで、思いきって声をかける。
璃子が振り返り、艶やかな髪がさらりと揺れた。
「……岡崎さん、だったかしら?」
「はい。あの……少しだけ、お話してもいいですか?」
「ええ、もちろん」
璃子は壁に軽く背を預け、優雅な笑みを浮かべる。
その余裕のある雰囲気に、優香は胸の奥がきゅっと締まるのを感じた。
(綺麗な人……。だからこそ、怖い。何を考えてるのかわからない……)
「……さっき、控室で。大地くんと何を話していたんですか?」
「ふふ。見ていたのね」
璃子は目元だけで笑った。
その表情は柔らかいのに、どこか冷たかった。
「ただの挨拶よ。共演者同士の。それだけよ」
「でも……大地くん、どこか様子が変だったから」
優香は一歩だけ、近づいた。
「……矢野さんは、昔から……彼のことを知っているんですか?」
璃子の視線がふっと伏せられる。
まつ毛が影を作り、すぐにまた上品な笑みが戻った。
「ええ。少し前に、彼と……“一緒に過ごしていた時間”があったの」
「……一緒に?」
「そう。近い距離で、ね」
持っていたファイルを握る指に力がこもる。
胸の奥が、ざらついた痛みに満たされていく。
(……やっぱり。普通の共演者じゃない)
「でも、岡崎さん」
璃子は急に笑みを消し、まっすぐ優香を見つめた。
その瞳は、冗談も飾りもなく――ただ真実だけを突き刺すように鋭い。
「あなたが知る必要はないわ。彼は今、あなたの“大地くん”なんでしょう?」
「……っ、そう……ですけど……」
答えると喉がひりつき、続きを言おうとしても言葉が出てこない。
(……この人の言葉、全部刺さってくる……)
「いいじゃない。彼を大事にしてあげて。……私のように、ね」
璃子は軽く肩をすくめ、微笑む。
そのまま何も言い足さず、ヒールの音を響かせて去っていった。
優香は、その背中を呆然と見送った。
(――やっぱり、何かある。
でも……知ってはいけないの?
……違うよね。守りたいなら……私が知らなきゃいけない)
冷たい廊下の中で、優香の胸の鼓動が静かに、でも確かに高鳴っていた。
照明の余熱が残る空気の中、スタッフと出演者たちの声がにぎやかに飛び交っている。
優香はケーブルを巻くふりをしながら、その視界の端でひとりの女性の動きを追っていた。
(……大地くん、控室で顔がこわばってた。
あの人――矢野璃子さん。……いったい、何を言ったの?)
璃子はメイク直しを終え、ゆっくり廊下へ出ていく。
その後ろ姿に、優香は小さく息を吸った。
「……あの、矢野さん」
廊下の角を曲がったところで、思いきって声をかける。
璃子が振り返り、艶やかな髪がさらりと揺れた。
「……岡崎さん、だったかしら?」
「はい。あの……少しだけ、お話してもいいですか?」
「ええ、もちろん」
璃子は壁に軽く背を預け、優雅な笑みを浮かべる。
その余裕のある雰囲気に、優香は胸の奥がきゅっと締まるのを感じた。
(綺麗な人……。だからこそ、怖い。何を考えてるのかわからない……)
「……さっき、控室で。大地くんと何を話していたんですか?」
「ふふ。見ていたのね」
璃子は目元だけで笑った。
その表情は柔らかいのに、どこか冷たかった。
「ただの挨拶よ。共演者同士の。それだけよ」
「でも……大地くん、どこか様子が変だったから」
優香は一歩だけ、近づいた。
「……矢野さんは、昔から……彼のことを知っているんですか?」
璃子の視線がふっと伏せられる。
まつ毛が影を作り、すぐにまた上品な笑みが戻った。
「ええ。少し前に、彼と……“一緒に過ごしていた時間”があったの」
「……一緒に?」
「そう。近い距離で、ね」
持っていたファイルを握る指に力がこもる。
胸の奥が、ざらついた痛みに満たされていく。
(……やっぱり。普通の共演者じゃない)
「でも、岡崎さん」
璃子は急に笑みを消し、まっすぐ優香を見つめた。
その瞳は、冗談も飾りもなく――ただ真実だけを突き刺すように鋭い。
「あなたが知る必要はないわ。彼は今、あなたの“大地くん”なんでしょう?」
「……っ、そう……ですけど……」
答えると喉がひりつき、続きを言おうとしても言葉が出てこない。
(……この人の言葉、全部刺さってくる……)
「いいじゃない。彼を大事にしてあげて。……私のように、ね」
璃子は軽く肩をすくめ、微笑む。
そのまま何も言い足さず、ヒールの音を響かせて去っていった。
優香は、その背中を呆然と見送った。
(――やっぱり、何かある。
でも……知ってはいけないの?
……違うよね。守りたいなら……私が知らなきゃいけない)
冷たい廊下の中で、優香の胸の鼓動が静かに、でも確かに高鳴っていた。