仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene23 帰宅後のふたり

 玄関のドアが静かに閉まる。
 外のざわめきが遠ざかり、夜の静けさがふたりをそっと包み込んだ。

 優香は靴を脱ぎながら、そっと振り返る。
 いつものように微笑んでいるのに――その笑みは、どこか控えめで、優しさが滲んでいた。

「……今日は、ゆっくり休んでね。」

 蓮はうつむいたまま靴を揃え、かすかに息をこぼす。

 「……何も話せなくて、ごめん。」

 その声は小さく、今にも消えてしまいそうだった。
 優香は一瞬だけ目を瞬かせ、ゆっくりと首を横に振る。

 「……ううん。無理に話さなくていいよ。」

 その言葉が落ちた瞬間、蓮の表情がわずかに揺れた。
 胸の奥に触れられたような、そんな痛みと安堵が混じった目。

 「……ありがとう。」

 小さくこぼれたその声は、弱さではなく――やっと息ができたような声音だった。

 優香は玄関の照明を落とし、リビングへと歩き出す。
 その背中からは、誰かを責める気配も、問い詰める影もなく、ただそっと寄り添うような温度だけが漂っていた。

(……言わなくてもいいよ。全部じゃなくていい。
 私はそばにいるから。)

 蓮はその背中を黙って見つめる。
 喉の奥が、言葉にならない想いでつまる。

(……守られてるのは、きっと俺のほうだ……。)

 夜の静寂の中、ふたりの足音はゆっくりと重なり――
 同じ家の中に、同じぬくもりが満ちていった。

 
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