愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
「何だ?」
「あ、いえ、すみません……」

 巴さんがタルトを食べ始めてから少しして、鋭い視線を向けながら『何だ』と声を掛けてくる。

(ヤバい……、見ていたのがバレてた……)

 じっと見ていたつもりは無かったのだけど、彼は視線に気付いたようで怪訝そうな表情を浮かべている。

「その、お味はどうなのかと思いまして」

 何か言わないとこの状況から抜け出せなさそうなので味について質問をしてみると、意外にも彼は素直に答えてくれた。

「美味い。高間の作る菓子は俺好みだ。だから専属として雇っている。甘い物は好きだが今は甘さ控えめの物を欲していてな、このタルトは甘さ控えめなのが良いところだ」
「そうなんですね。実は私の両親もパティシエで、お菓子には目がなくて……だから、味が気になったんです」
「ほお? 店は持っているのか?」
「はい、Patisserie KURUSUという店です」
「……ああ、近くにRoseというケーキ屋があるところだな?」
「そうです」
「一度食べたことはあったと思うが、買って来させた物も数多いからな……」
「そうなんですね。お抱えのパティシエがいらっしゃっても、よそのお菓子、召し上がるんですね、少し……意外です」
「美味い物を食したいと思うことは、人間の性だろう? 菓子にしても料理にしても、専属を雇っていようが気になれば食べる」
「そうなんですね」

 何だろう、巴さんは食べることが好きなのか、食べ物の話になると、これまでの雰囲気からは考えられない程に時折柔らかな表情を見せてくる。

 初めこそ『怖い、感じ悪い』という印象を持っていたけれど、話をしてみると悪い人では無いことが分かって、少しだけ嬉しくなった。
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