愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心

少しでも役に立てるように

「おい、カップの位置がズレている」
「そうでしょうか?」

 上澤家で働き始めてから約二週間、目まぐるしい日常を過ごしていた。

 初対面で巴さんに言い返し、初仕事でお菓子を届ければ会話が長引いて戻るのが遅くなったという話が使用人たちの間に知れ渡り、私は『これまでのメイドとは違う、長続きするであろう期待の星』だなんて言われていた。 

 巴さんも相変わらず嫌味や細かいことを指摘してはくるものの、多少のことにはまともに取り合わず、流すというスキルを順調に身につけていく。

「お前、分かっていてシラを切っているな?」
「いえ……とんでもございません」

 机の上に置いたカップの位置がズレているという巴さんの言葉を受けてテーブルに視線を移すと、確かに少しだけズレていることに気づく。

「あ、本当ですね! 五ミリ左でしたね、申し訳ございません」

 よくもまあ、いちいち細かいことを指摘するなぁと思いつつ、しっかり謝罪の言葉を述べた私は正確な位置へ置き直した。

 すると、巴さんは手にしていたペンの動きを止め、ちらりと私を見た。

「……五ミリとか、よく覚えているな」
「専属メイドですから」
「ふん、余計なところだけ有能だな」

 この二週間、ことある毎に嫌味ったらしく位置がどうのと言われてきた私は、ある程度の物の距離感を正確に把握出来るようになっていた。

「嬉しいです。褒め言葉として受け取っておきますね」

 お陰で嫌味にも笑顔で対応することが出来、にっこりと微笑みながら言葉を返すと、それが気に入らなかったのか巴さんは目を逸らし、書類を捲り始めた。
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